近年、北海道沖の千島海溝では、大規模な地震と津波のリスクが高まっていることが明らかになっています。東北大学や北海道大学、海洋研究開発機構(JAMSTEC)などの研究グループが実施した最新の海底地殻変動観測により、海側と陸側のプレートが強く結びついており、長年にわたって「ひずみ」を蓄積していることが確認されました。このひずみの蓄積が、マグニチュード9クラスの巨大地震を引き起こす可能性があると指摘されています。
研究の背景と千島海溝の地震リスク
千島海溝沿いでは、17世紀に発生したとされる巨大地震からすでに約400年が経過しています。政府の地震調査委員会は、この地域で今後30年以内にマグニチュード8.8以上の地震が発生する確率を「7%から40%」と評価しています。
千島海溝の地震メカニズムを正確に把握するため、研究グループは2019年から5年間にわたり、海底GPS観測点を設置してプレートの動きを調査しました。この観測では、海側のプレートが年間約8センチ陸側へ移動している一方、陸側のプレートのうち海側プレートが沈み込み始めている場所の観測点も、同様に年間約8センチ陸側へ移動していることが確認されました。
この結果は、プレート同士が「固着」している領域があり、そこにひずみが蓄積されていることを示唆しています。17世紀の巨大地震以降、年間8センチの固着が続いていると仮定すると、すでにプレートがずれ動いた際のエネルギーと同程度のひずみが蓄積されている可能性があります。
海底GPS観測の意義
これまで、陸上に設置されたGPS観測点のデータから、千島海溝沿いではプレート同士が強く固着していることが分かっていました。しかし、海溝軸付近での詳細なひずみの分布は把握できていませんでした。
そこで研究グループは、海底に直接GPS観測点を設置し、プレート境界での動きを詳細に調査しました。もし、海側プレートの観測点が移動している距離に比べ、海溝軸に近い陸側プレートの観測点の移動が少なければ、プレート境界はそれほど固着しておらず、ひずみの蓄積も限定的と考えられます。しかし、今回の調査では、両者がほぼ同じ速度で移動していることが確認され、プレート境界の固着域が広範囲に及んでいることが明らかになりました。
今後の調査と防災対策
研究グループは、今後さらに北海道・十勝沖にも観測点を設置し、詳細な調査を進める計画です。東北大学災害科学国際研究所の富田史章助教は「2011年の東日本大震災から14年が経ち、多くの人々の記憶が薄れつつあるが、同規模の巨大地震が再び発生する可能性を意識し、防災対策を改めて考えてほしい」と警鐘を鳴らしています。
千島海溝では過去にも巨大地震による津波が発生しており、今回の調査で確認されたひずみの蓄積は、今後の地震リスクを改めて浮き彫りにしました。今後の研究成果を踏まえながら、地域住民や自治体は地震・津波への備えを強化し、被害を最小限に抑えるための対策を講じることが求められています。
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