2024年12月15日、ワシントン発 – 世界最大規模の地球科学と宇宙科学の専門家たちが集まる「アメリカ地球物理学連合(AGU)」の年次大会が、2024年12月にワシントンで開催され、31,000人以上の参加者を迎えました。今年の大会では、地震学、気候科学、太陽圏物理学などさまざまな分野で新たな研究成果が発表されました。しかし、その場に漂う空気には、次期大統領として再登場するドナルド・トランプ氏の政策に対する不安と緊張が色濃く表れていました。
トランプ氏は、気候科学を「巨大な詐欺だ」と公言し、大統領として任期中には、アメリカ合衆国の科学予算を削減し、化学産業や化石燃料産業の利益に反する立場を取る科学者たちを排除する政策を推進しました。これにより、科学者たちは再び厳しい状況に直面することを懸念しています。AGUの年次大会では、トランプ大統領の再任に向けた警戒感が高まる中、参加者たちはその影響をどう乗り越えるかを語り合っていました。
科学者たちの懸念と不安
AGUの会議に参加した科学者たちは、次期政権が気候科学に対する否定的な態度を強化し、連邦政府職員の大量解雇や予算削減を行うのではないかという不安を抱えています。ある国家海洋大気庁(NOAA)の科学者は、「私たちは今、背後に標的を置かれているような感じがする」と語り、すでに気候危機という表現を避けて「空気の質」など、より受け入れやすい用語に置き換えようとする動きがあることを明かしました。
「現状に対する不安や、仕事、生活、そして科学に対する影響について、今後どうなるのか心配している声が多い」と話すのは、AGUの次期会長に選ばれた気候科学者ベン・ザイチック氏です。「多くの人々は疲弊しているかもしれませんが、それでも多くの科学者が動機を持ち続けています」と語り、政治的な圧力がかかる中でも、科学者たちはその役割を全うしようとしている姿勢を示しています。
若手科学者の不安
若い科学者たちも不安を感じているようです。ある博士課程の学生は、トランプ政権下で働くことについて「とても憂鬱だ」と述べ、また、NASAの研究者は「もし今、部門の職を提供されたらすぐにでも受け入れるだろう」と、将来に対する懸念を口にしました。しかし、これらの若手研究者たちは、困難な時期を乗り越えるために決して諦めない決意を固めています。
科学の価値と未来
AGU大会では、公式プログラムにおいても、次期政権に対する懸念を公にすることは少なく、代わりに新たな研究成果が紹介されました。例えば、北極圏の氷が溶ける危険性や、人工知能(AI)を活用したイノベーションなどが議論されました。しかし、AGUのリーダーシップは、会場の雰囲気に不安が漂っていることを認識しており、科学者たちが直面する未来への不透明感に対しても言及しています。
「信頼できる事実を提示することが最も重要だ」と強調するのは、AGU会長であり、古気候学者のリサ・グラウミッヒ氏です。科学者たちは、過去にはチャールズ・ダーウィンやアレクサンダー・フォン・フンボルトのように社会的な名声を得ることもありましたが、現在では、アメリカ国内での科学者に対する信頼が急激に低下しており、その一因として、特に政治的な分断が影響していると彼女は指摘しています。
政治的対立と科学者の立場
また、科学者たちは、アメリカ国内での科学に対する信頼低下を受け、今後どのように立ち向かうべきかを考えています。最近の世論調査によると、特に共和党の支持者の間で、科学者に対する信頼が著しく低下しており、約4人に1人が「科学者は公衆の利益を考えていない」と感じているという結果が出ています。
気候科学者であるケン・カルデイラ氏は、「私たち科学者は、単なる政治的なロビー団体として見られてしまうことを避ける必要がある」と語り、再び「事実の確立者」として科学者が認識されるべきだと訴えています。科学者たちは、自分たちの研究が政策に影響を与えるべきだと考えている一方で、政治的な中立を保つことの重要性も認識しています。
科学者たちの決意
それでも、科学者たちは決して後退するつもりはありません。アリゾナ州立大学の水文学者ジェイ・ファミリエッティ氏は、気候変動と農業慣行が原因で世界中で淡水資源が急速に減少しているという警告を発表しました。「私たち専門家は、適切な措置を講じるべきだと声を上げる責任がある」と語り、政治的に不安定な状況でも、科学者としての使命感を持ち続けています。
「私たちは今後の数年を悲観的に考えることもできますが、過去40年間続けてきたように、私は今後も全力で進むつもりです」とファミリエッティ氏は語り、科学者としての使命感を強調しました。
トランプ政権の影響と未来の科学
もしトランプ政権がフロリダ州のように、政府の全ての気候変動に関する記述を削除するような政策を取ったとしても、地球の温暖化は進行し、災害や経済的な損失は避けられません。科学者たちは、この事実が政治的に受け入れられる時が来るまで待っているとしています。しかし、彼らは決して引き下がることはないと確信しています。
「事実は事実であり、科学は科学です。私たちは1つの政治サイクルに左右されることなく、戦い続けます」とグラウミッヒ氏は力強く語りました。科学者たちは、政治的な圧力にも屈することなく、真実を伝える役割を果たし続ける決意を新たにしています。
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