6-5章 プラウトヴィレッジ / 持続可能な社会プラウトヴィレッジ 第二版

 

○福祉

 自治体では体が不自由な人の福祉にも取り組む。体の不自由な人がいる家族に対しては快適な生活ができるように、住居もそれ仕様に設計される。多目的施設では車椅子の移動を前提に床面を平坦にし、ゆるやかなスロープや車椅子の幅を考慮した広い通路やドアを基本に設計する。各案内板には視覚障がい者の為の点字を表記し、音声を自動で字幕化して画面に表示する音声認識技術も用いる。電動車椅子などの福祉用具も、全て自治体の3Dプリンタなどで製造され提供される。身体障がい者の補助犬の手配も自治体で行い、手話の教育なども行われる。

 少子高齢化が進む日本には2020年の時点で、65歳以上人口は3619万人、総人口に占める割合は28.8%。約600万人の認知症の高齢者がいたとされている。これが2050年時には、65歳以上の人口が3841万人、総人口に占める割合は37.7%と大幅に高齢化している。この時、20~64歳の約1.4人が65歳以上1人を支える状況になり、認知症患者の人数も増えることになる。
 貨幣社会では金銭面の問題や受け入れ先の有無などで、在宅介護を余儀なくされる家庭もある。また仕事が忙しく、時間も精神的にも余裕がないという人もいる。

 プラウトヴィレッジではこの問題について、まず全住民が自由な時間があるので、世話をする余裕があるということが一点。さらに自治体の仕組みとして、認知症と診断された住民同士が一緒に住む専用の住居を自治体内に設ける。そこには庭に草木で作った柵のような境界を設け、その敷地内なら自由に行動できるようにする。よって敷地内には池などの危険となるものはない状態にしておく。そうして徘徊で迷子になることを防ぐ。
 その専用住居からの外出は家族や友人が一緒であれば自由で、出入りもいつでも可能。日中は家族と共に自宅で過ごし、夜間は専用住居に預けておくということも可能。
 一定人数の認知症患者が1つの施設で共に過ごすようにしておくと、家族や友人などそこを訪れる人数も増えることになる。そうすることで、誰かが転んで怪我したりしても、訪問者の誰かが気づいて助けたり、家族に連絡したりが行われやすい。また人が集まる自治体の中心部にこの施設を建て、中が見えやすいように柵は網目などにすることで、中で何か問題が発生した時も周囲の人が気づきやすくなる。
 またトイレ以外の場所で排泄を行うこともあるので、その専用住居の床や壁は拭き掃除が簡単なものにする。そして同じく危険となる包丁などの道具は置いてはおかない。この専用住居は遠い場所にある施設ではなく同じ自治体の施設なので、住む家が近所に移ったという距離感であり、家族はいつでも会える状態。この専用住居は自治体の医食部が管理し、家族や住民が世話を行っていく。

 これに加えて考えられるのは、子供達を中心として大人と一緒に交代で認知症の住民の介護をするという自治体の仕組み。誰もが老い、やがて認知症になる可能性があり、子供にとっては自分達の将来を知る社会勉強になる。そういった人間の老いに早いうちに接することで、健康と食の在り方や、人に対する思いやり、謙虚な物事の考え方を学ぶ場となる。

 また日本では一般的に馴染みがないものだが、福祉には身体障がい者の性の介護も含まれる。どんな重い障がい者でも性的欲求があり、それを解消すべくセックスボランティアが住まいへ伺い介助を行う。こういったことも福祉の一環として位置づけられる。


○安楽死、自発的飲食中止について

 医師の助けを借りて自らの意思で死を選ぶ安楽死には、積極的安楽死、自殺幇助(ほうじょ)、消極的安楽死(尊厳死)の3つがある。


 積極的安楽死の条件は、明確な患者の意思を前提、耐えがたい苦痛がある、回復の見込みがない、代替治療がないなどで、措置は医療従事者が患者に致死薬を投与する。

 自殺幇助の条件は、積極的安楽死と同様で、措置は医療従事者から処方された致死薬を患者自身が摂取して自ら命を絶つ。

 消極的安楽死(尊厳死)の条件は、本人の意思を前提、回復の見込みがない病、終末期にあることで、措置としては延命のためだけの治療を中止し、死期を早める。


 2024年に世界196ヵ国ほどある中で、安楽死を合法化しているのは次のような国々。

・積極的安楽死と自殺幇助を認めている国
スペイン、ポルトガル、ルクセンブルク、オランダ、ベルギー、ニュージーランド、コロンビア、オーストラリアの複数の州、カナダ。

・自殺幇助だけを認めている国
スイス、オーストリア、イタリア、米国の複数の州。

 日本や韓国では、患者本人の意思表示に基づく消極的安楽死は実施できることになっている。

 安楽死や自殺など自らを死に追いやる行為については、その国の宗教とも関係しており、基本的に禁止されている。
 キリスト教やイスラム教の多くの宗派も反対の立場で、自殺、殺人は重大な罪であり、天国ではなく地獄へ行くとされている。ユダヤ教でも安楽死や自殺は禁じられている。
 仏教やヒンドゥー教では、故意に命を終わらせる行為は悪いカルマを生み出すとしている。それは未来の生まれ変わりに悪影響を与え、苦しみはなくならず連鎖すると考えられている。安楽死を手伝った医師についても、悪いカルマを生み出す危険な行為と見られることがある。
 これら5つの宗教は世界人口の約78%ほどを占めている。それぞれの宗教の中にも宗派や人によって考えが違ったりすることがあり、全ての人が反対しているわけではない。

 実際に仏教の開祖である釈迦は自殺を認めていなかったが、3つの条件に当てはまる時の自殺は非難しなかったという見方もある。それは、出家者であること、彼らに深刻な苦しみがあってそれを取り除く代替手段がないこと、そして彼らが真理を悟り解脱を達成した後であれば、この世で成すべきことは何もないとして自殺は認められた。
 他にも死ぬ可能性はあるが人生の目的のために行動を起こして死ぬのは良しとされたり、誰かを助けるために死ぬのは良いという仏教の見方もある。

 安楽死については宗教の影響もあり、多くの国で賛否が分かれている。また世界には無宗教の人もおり、宗教の影響を受けない人もいる。調査方法によるが、2022年の世界人口の約79億人中、16%の約12億6400万人が無宗教という報告がある。国別の無宗教の人口割合は中国の約52%が一番多く、二番目に日本で約62%、三番目に北朝鮮で約71%、四番目にチェコ共和国で76%、五番目にエストニアで約60%。五大陸別の平均では、オセアニアで約24%〜36%、ヨーロッパで約18%〜76%、アジアで21%、北アメリカで23%、アフリカで11%となっている。ヨーロッパの数値の幅が大きいのは、チェコやエストニアなどの国々では非常に高い無宗教率を示す一方で、比較的低い割合の国々もあり、ばらつきがあるため。

 伝統的に死を選ぶことは禁止されていたとしても、実際に目の前で家族や友人が激痛で長期的に苦しんでいて、それが治る見込みもなく、毎日寝たきりで自由に動けず、食事もトイレも誰かの助けを必要とし、そして本人が死を望んでいるのであれば、もう楽にしてあげたいと思う人もいる。
 苦しんでいる患者の安楽死が認められなければ、死ぬまで生き地獄が続く。反対に認められればそれが希望となり、実施されるまでの期間少しは心が軽くなって、今のうちにできることはやっておこうと前向きな心が芽生えるという人もいる。

 ただ安楽死を合法化すると、それを安易に利用する人、社会的圧力で強制的に利用させられる人が増えると懸念する声もある。特に高齢者、低所得者、身寄りのない人、体の不自由な人などだが、安易な利用を防ぐためにすでにある積極的安楽死や自殺幇助の条件を用い、複数の医師による承認も得て行うことが必要となる。そして残された家族が後々後悔しないように、患者と家族が充分に話し合った上で決定する。

 安楽死を望む多くの人は、人生に絶望していることが多い。絶望も「私」という自我があるために起こる。絶望やひどい苦しみが続くと、もうそれ以上苦しみたくない、苦しみから解放されたいという思いが強くなる。その時、苦しみの理由が心にあることに気づき、無心になって自我を克服しようと、強い思いで取り組み始める人もいる。ただ痛みで気が滅入っている患者全員が、それに積極的になれるのかという側面もある。

 また安楽死の他にもう一つ死期を早める方法がある。それは自発的飲食中止(VSED)で、食べることを止めて死を迎える方法。オランダではある年、自発的飲食中止で年間約2500人が亡くなったという調査もある。
 日本でも終末期の緩和医療に携わる医師の約3割が、自発的飲食中止で死を早めようとする患者を診たことがあるという調査結果もある。
 自発的飲食中止の場合、水分摂取をほぼゼロにしてからでも、死亡まで通常1週間は経過する。医師によって適切なサポートがあれば、平穏に死んでいける方法と述べている医師もいる。
 インドのジャイナ教でも古くから同様の行為が行われており、サッレーカナーという。これは徐々に食事の量を減らしていき、最終的に断食による死を選ぶ。これが認められるのは、末期の患者で、飢饉など食糧が得られないときや、老齢で機能を喪失している場合、病気で回復の見込みがない場合とされており、僧侶の監督下で行われる。これは自殺のような衝動的行為とは区別されている。また仏教と同じく、人生のすべての目的を達成したか、または人生の目的をとげることを身体が許さなくなったときに行われるとされている。

 プラウトヴィレッジでは人間の内側の目的として自我の克服を推奨しているため、その目的を果たすまで自発的飲食中止も安楽死も自殺も推奨はしないが、不治の病で死ぬまで激痛に耐えなければならない人など、一定の条件に当てはまる人たちに選択肢を残す必要もある。
 そのためプラウトヴィレッジとして安楽死の公認医師を選定し、場所も限定された状態で行うことになる。当然その医師も、自分の意思で行う人物に限る。そして積極的安楽死、自殺幇助、消極的安楽死、自発的飲食中止のどこまでが対応可能かを議論した上で決定する。
 長生きするのが良くて短い命が良くないのか、意識が戻る可能性はほぼない患者に点滴で栄養を与える延命治療が良いのかどうなのか、死に直面した患者、その家族、宗教などそれぞれに考え方、感じ方があり、安楽死を禁止する、しないという二極論では答えはでない。そういったこともあり、それぞれが自己責任で選択するということになる。

○葬儀と墓

 プラウトヴィレッジでは各宗教や思想に沿った形で葬儀が行われる。火葬が必要な場合は、総務部が管理する運営館の斎場(さいじょう)と火葬炉を使用する。墓という概念も宗教や文化によって様々だが、製造部が中心となって自治体内で墓地の場所を決める。飼っていたペットがなくなった時も、運営館の動物炉を使用する。


○穏やかさ調査

 必要であれば1年に1回、推薦選挙の日に穏やかさ調査を行う。この調査は住民の内面の穏やかさ・静寂度を図る生活調査で、無心の時間が多い人ほど穏やかさは高くなる。幸福度という尺度で計ると、幸せは人によって価値観が様々で、また喜びのような感情は一時的で正しい答えは得られない。穏やかさ調査の内容は次のようなものになる。


1、日々、穏やかか?

回答、(穏やかではない) 0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10 (穏やか)


2、1日の中で無心をどのくらい意識するか?

回答、(全く) 0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10 (頻繁)

○町会と住居の住所

 プラウトヴィレッジの住所は次のように設定する。最も北にある直径1333mの円を1番とし、そこから時計回りに2~6番まで番号を割振り、7番は真ん中の直径1333mの円に割振る。同じ要領で444mの円、148mの円、49mの円にも1~7番まで割り振っていく。すると住所はPV11111からPV77777の間のどれかになる。フラワーオブライフのプラウトヴィレッジの場合は、PV11111が真北、PV77777は自治体の中心部分の広場になる。もし縦長のプラウトヴィレッジの場合は、同じ要領で北から南へ番号を割り振り、横長の場合は東から西に番号を割振る。


 住所は「六大州名、国名、県名、自治体名、PV54123」となる。また町会はプラウトヴィレッジ内に数多くできるが、町会の名称はその階層により変わる。例えば「自治体名、PV6774、5町会」、「自治体名、PV32、3町会」、「自治体名、1町会」のように。



○世界連邦

 世界連邦も自治体と同じく、総務、医食、製造の組織が存在し、国や六大州より大きな規模で運営を行う。ただ世界連邦や六大州のこれらの組織は必要があれば作り、自治体や国で運営が完結しているのであれば作る必要はない。


 貨幣社会の政治制度では、立法、司法、行政の三権分立などで権力を分散させることが多いが、ここで理解するべきことは、世界連邦に参加する州長などは、自治体から選ばれてきた誠実な人格者であるということ。つまり人格者の集まりが世界連邦であり、そこで権力の乱用が行われることはない。また多くの問題を自治体で解決することが前提となるので、世界連邦で解決する問題は限られたものになる。どこの自治体でも、5町会で選ばれた人物が世界連邦の大統領まで繋がっていく。


○世界連邦の仕事

 世界連邦は世界的な運営のルールを定める。ただルールはない方がよく、ルールが一つ増えるほど住民は把握するのが難しくなり、無頓着になる。それが前提にあって、ルール案は、世界連邦の運営組織の大統領と副大統領、六大長や副六大長の全員賛成により成立する。運営組織の長達は六大州を代表して集まっているので、各大陸の国長達の意見を全部聞いた上で参加していることが前提となる。


 また国長からルールの修正や人選変更の要求も、まずその大陸の六大長や副六大長に話を持っていき、その後、世界連邦で同様の会議を開く。


 そして世界連邦でも1年に1回、推薦選挙を行う。大統領と副大統領には、運営組織の六大長や副六大長が投票して決定する。

 世界連邦では国際紛争などの解決にも努める。国長同士の話し合いで決定しない場合の最終決定は、大陸の六大長や副六大長を含めて話し合い、それでも解決しない場合は世界連邦で話し合い、大統領が最終決定を行う。



コメントを投稿

0 コメント