5-3章 教育 / 持続可能な社会プラウトヴィレッジ 第二版

 

○学び方を学ぶ

 どんな事柄に取り組んでも成長の過程は同じであり、短くまとめると「好奇心、実践と技術、長期反復」となる。もう少し詳しくまとめると、次のようになる。


1、好奇心

 いつも好奇心に従う。好奇心は直感で、それに従って成り行き任せに進むのが良い学びの順序。好奇心に従うと学びが自主的になり、やる気も維持しやすい。



2、実践と小さく簡単な技術や知識から反復

 実践でよく使うかんたんな技術や知識から選び出し、1つ1日30分、1週間繰り返すと体が覚え始める。この時、うまい人の技術や動き方を3〜5段階くらいに分けて見える化し、始めはゆっくり真似する。できるようになれば同じ速度で真似してみる。1ヶ月くらいするとシナプスもさらにできてきて、かんたんな技術を3つくらい覚えると習得のコツがつかめてくる。またその技術を組み合わせると、複合技ができる。そしてこれを実践で使う。知識の場合も覚えようとするより、実践を通じて見聞きする反復回数が多くなるよう工夫し、見慣れるようにする。こうして実践を繰り返していると、次の成長に必要なヒントも見えてくる。これを繰り返していると分析力が高まり、他の事柄に取り組んだ時にもすぐに理解する力になるため、何をしても独自に成長する能力が高まる。


3、1日の練習量

 たくさん反復するほどシナプスが増え、質が高まる。毎日3時間以上が上、2時間が中、1時間以下が下。毎日同じ練習をしていると飽きてくるので、同じ技術練習でも変化を加えることが鍵。そのため新しい知識を本、動画、他者から得続け、自分で考えて工夫する。その試行錯誤が考える力と計画する力を養い、幅広い知識と視野、そして自制心も養われてくる。


4、3年目

 練習した技術や知識を実践で使い、自分で考えて練習計画を立てることを3年続けると、考える力も実力もつき、成長と成功のコツもつかめてくる。そのため達成感とやりがいを感じ、自信もつく。また1日24時間の限られた中で、限界に達するほど極端に取り組むと人間の限界も知れ、人間に対する理解が深まる。また自分が満たされていると、自我が薄い人ほど他者への貢献が喜びにもなる。もしこの期間に成長をあまり感じず自信を失いそうになれば、まず反復時間をよく観察してみる。反復量が少ないと成長量は少ない。意識が高く毎日平均3時間取り組んでいる人は、そうでない人に比べて成長速度は速い。


5、10年目

 平均して1日3時間以上の自主計画の練習を10年間続けていると、合計で1万時間取り組んだことになる。1日2時間ほどの人の場合でも、合計7000時間になる。するとその事柄においてかなり高いレベルに達する。ただ1万時間と7000時間では、能力的に大きな差がある。ただここまで続けられるのは天職、適職の時で、高い取り組む意識があるからこそ。また、物質的な成功の場合、それは人生のゴールではないとも知れる。その時は無心になり、執着を離れ、穏やかであることが鍵。もし1日1時間ほどを練習を10年続けた人は、合計で3500時間ほどになる。1万時間続けた人との練習時間の差は2.8倍ほどになり、能力的に明らかな差となる。


 これは運動、芸術、知的活動など、ほとんどのことに当てはまる学び方。行う事柄が違っても、それを行うのは人間の体であり、人間の体が理解できると何をしても成長の過程は共通している。また指導者の必要性が限りなく少なく、基本は70~100%を自分自身で取り組みながら、わからないところを先生から教えてもらったり、意見してもらうという分量。こうして自分で自己分析して自分を成長させていく。


○教育の参考例

 ここまで述べてきた無心、直感、技術の考え方をもとにプラウトヴィレッジは運営されていくが、その上で参考になる学校がある。アメリカのマサチューセッツ州のフラミンガムにあるサドベリー・バレー校で、4歳から19歳までの子どもたちを受け入れている学校。

 この学校の特徴的な例は次のようなもの。


・この学校では、自分で学びたいことだけを自分で学んでいけるようにしている。

・学校はただ子供たちの意欲に応えるだけ。個々の子どもの活動の全責任はその子どもとともにある。自分の行為の結末は自分が引き受けるべきで、それが自己責任という感覚を養う。

・この学校の開設者たちが、子供たちが怯える対象とならないように気をつけている。

・必修科目の学習を、あらゆる水準において設定していない。

・この学校のクラスとは、学ぶ側と教える側の取り決めを指す言葉。数学、フランス語、物理学、スペリング、陶芸でもなんでもよく、子どもたちのうちの1人、あるいは何人かが何かを学びたいと思ったとき、クラスの結成が始まる。最初は自力でどう学んでいくか、自分達で方法を考える。それだけで済めばクラスは誕生せず、ただ学びがあるのみ。問題は子どもたちが自分達の力だけでは無理と判断したときで、その時、子どもたちは自分達が学びたいことを教えてくれる人を探す。手助けしてくれる人が見つかったらその人と協定を結び、クラスがスタートする。

・協定づくりにあたって、いつ生徒たちと会うか教師は約束する。固定した時間帯、柔軟性のある約束など自由に。途中、教師がこれ以上教えることはもう無理と判断したら身を引くこともできる。

・ある青年が物理学を学ぶため学校の大人と協定を結んだ。しかし教科書を読みだして5ヵ月後に1回質問に来ただけで、あとは自力で勉強してしまった。青年はやがて数学者となった。

・算数を学ぶ子供の例。子供たちに算数を学ぶ意欲が湧き、学校内で教えてくれる先生を見つけ、週2回、1回につき30分学ぶことになった。その算数の全教程を終えるのに24週(6か月)かかった。ふつうの学校なら6年かけて学ぶ内容を、半年で学んだ。

・サドベリー・バレー校には毎日何時間もひたすら書き続けるライターや、ひたすら描き続ける絵描き、ろくろを回しつづける陶芸家、料理に熱中するシェフ、スポーツ一筋の運動選手、毎日4時間のトランペット演奏を欠かさない子供などもいる。

・サドベリー・バレー校では、本を読めない子どもたちに対する本読みの強制はいっさいない。大人がおだてたりご褒美で釣ることも全くない。しかし読書障害はゼロ。文盲のまま、あるいは満足に読み書きできない状態で卒業していった子は1人もいない。この学校では8歳、10歳、稀に12歳になってもまだ読み書きできない子もいる。しかしいつの間にか読み書きできるようになり、覚えるのが早かった子に追いついてしまう。

・この学校では年齢別に分けず、子どもたちの自由にさせている。年下が年上に教えることも多々ある。学びの進み具合がバラバラなとき、子ども同士は助け合う。助け合わないとグループ全体として遅れてしまうからで、お互い競争したりいい点の取り合いをしていないので助け合いの精神が育つ。

・年齢ミックスは学習の面でもプラスがあり、説明の仕方は大人より子どもの方がシンプルで良い。また教えることによって自分のかけがえのなさ、達成感を味わうことができる。また教えることを通し、問題を整理して核心に一気に迫れるようになる。

・キャンパスにある大きな23mのブナの木のてっぺんに12歳の男子が登ったが、それも注意せず子供の自由にさせた。他にも岩場や小川など見方によっては、どんなものでも危険な存在になり得る。本当の危険は、彼・彼女らの周りに規制の網を巡らすことによって生まれる。規制を突破することが逆に挑戦となってしまう。規制を破ることが至上命題になってしまうと、こんどは肝心の安全の確保の方がおろそかになる。そこで、この学校では成り行きに任せることにし、少々の危険は覚悟することにした。子どもたちは生まれつき自己防衛本能を持っており、自己を破壊するような真似はしない。

・サドベリー・バレー校で起きた事故のうち最も大きなものは、8歳の子が滑って転んで肩を打撲した転倒事故。

・危険に関して、池の畔(ほとり)だけには規制を設けている。池や沼は公共の危険で、水面を見ただけでは深さがどれくらいか分からない。溺れてしまったら最後。したがって全校集会の全員一致で立ち入りは全面禁止となった。ただ池にはフェンスは設けていない。

・サドベリー・バレー校の大人は子どもたちを誘導せず、グループ分けもせず、ほかの学校でやっているようないろんな手助けも一切しない。全て自分自身でするように言っている。これは大人が身を引いて自然に任せればいい、あとは何もしなくていいという放任論ではない。学校のスタッフ、親、その他のメンバーは、子どもたちの能力の自然な開花を妨害しないよう大いに心がけなければならない、ということ。子どもたちの発達の流れを違った方向に誘導したり、その前に障害物を構築したりしないよう全面的な自制が必要。



○プラウトヴィレッジの教育で大事な理念

 プラウトヴィレッジではあらゆることで自給自足をおこなうので、勉強ができなくても、仕事がなくても、誰も貧困に陥らず生きていける。そして自給自足しているのでお金を必要とせず、会社も存在しないので、学歴や就職、無職という概念もない。
 そういった社会での教育は、学ぶ側がより主体的に学べるようにすることが重要。その中で共有する考えは、プラウトヴィレッジの運営・教育理念でもある次のこととなる。

 

【人間の内側】

意識として在り、無心になり、自我・執着・苦しみを手放し、穏やかな心を保つ。


【人間の外側】

地球をプラウトヴィレッジで結び、全住民で自治体を運営する。戦争・争い・武器・貨幣がなく、自然と動物を保護し、自然が回復できる範囲内で生活を営み、平和な社会を保つ。

 


コメントを投稿

0 コメント