○住居の基本素材
日本の住宅の多くは断熱性が低いため、冬にいくら暖房しても熱は奪われていき、窓には結露(けつろ)が発生する。この状態で暖房を続けても電力の無駄使いとなる。そのため断熱材を使い、熱が逃げる部分を作らない。これに複層ガラスや24時間の機械換気を加えることで、夏も冬も冷暖房を24時間使いながら、低い電力量で済むようにする。
またビル、マンション、住居で使用されるコンクリートは、その製造過程で二酸化炭素を大量に放出し、地球温暖化に大きな影響を与えていることから、使用量を減らす必要がある。
こういった問題含め、充分な家に住めない貧困、難民問題などにすぐに対応しながら、今からでも作り始めることができ、かつ世界中で持続可能な家の在り方を考えると、基本素材は早生桐(そうせいぎり)、竹、藁(わら)、土、粘土、石、石灰、水となる。
藁は稲や小麦などの茎を乾燥させたもの。稲は日本からインドまでのアジア圏で多く作られる。麦はアフリカ、ヨーロッパ、アジア、ロシア、オーストラリア、カナダ、アルゼンチンなど世界中で作られている。そのため藁はどこでも得ることができ、これを束ねて約50cm幅のブロックにしたものを断熱材とし、住居の柱と柱の間に積み上げていく。その藁壁の内と外に土を貼り付けて土壁を作る。こういった家はストローベイルハウスと呼ばれている。ベイルは干し草や藁を圧縮してブロックの形にするベーラーという農業機械によって作られる。
柱は早生桐を使用する。これは一般的な桐よりも成長が速く、5年で高さ15m、直径40㎝ほどに成長する。強度もあるため、柱や家具に使える。また一度植えれば伐採後も再び芽がでてきて5年毎に伐採でき、それが30~40年続く。温暖な気候で酸性・アルカリ性が強すぎない土壌であればどこでも栽培できる。
また砂、粘土、藁などに水を混ぜて土壁やレンガ壁を作るコブやアドベという建築方法も、昔から各大陸で見られる。藁など繊維質を混ぜると、細長く伸びた藁が土と土をつなげ、コブの引張強度は高まる。
これらの土壁は風雨にさらされ弱くなることから、油を混ぜた漆喰などをさらに外側に塗り、防水性、耐久性を高める。
ストローベイルは50cm前後の厚さの壁、コブなどは約60cmほどの土壁だが、住居内部に薄い壁が必要な時は、日本の伝統家屋に見られる竹こまいに土を貼り付ける方法も使用できる。
竹は主に気候が温暖で、湿潤なアジア東部と南部、アフリカ、南アメリカの赤道付近の国々で育っている。
次の数値は熱伝導率で、その数字が小さいほど熱を伝えにくいので断熱性能が高い。藁は断熱性能が高い。
約0.016 W/(m・K) グラスウール16K(主原料はガラス)
約0.05 - 0.09 W/(m・K) 藁
約0.5 - 0.8 W/(m・K) 土壁
約0.1 - 0.2 W/(m・K) 天然木材
約1.7 - 2.3 W/(m・K) コンクリート
藁の他にイネ科の茅(かや)や干し草も使える。茅で 0.041W/(m K) になり、芝生の干草では 0.037W/(m K) となる。茅にはチガヤ、スゲ、ススキ、ヨシ、カリヤス、カルカヤ、シマガヤといった種類があり、日本では茅葺(かやぶ)き屋根として知られている。
つまり藁は毎年世界各地で採取できる資源であり、自治体が使える素材の量を把握しながら行えば、資源の枯渇に直面することはなくなる。ただ土はできあがるのに何百年と時間がかかるため、早生桐や藁など短い期間で何度も採取でき、土の使用量がまだ少ないストローベイルハウスのほうが、コブハウスよりも優先度が高くなる。
こういった住居は再利用が可能な素材で、修繕を繰り返しながら長く使用していくことを前提としている。また使用後も自然に返せる素材である。
ストローベイル、コブ、アドベは各大陸で昔からある手法であり、持続可能な住居の基本として全世界で適用しやすい。
また日本のように雨が降り湿度の高い場所では、カビによる藁の腐敗対策が必要となるので、次のことも検討する。
・雨水を確実に処理できる屋根を使用し、その庇(ひさし)や窓の水切りを適度な長さにして雨水から壁を守る。
・住居の土台を高くし、地面を飛び跳ねる雨水から壁を守る。
・地面からの湿気が壁内に入らないようにする。
・外壁通気構法にして、外壁材と断熱材の間に空気の通り道を作ることで湿気を放出・乾燥させ、結露を防止する。
そして住居と地面の接着面はコンクリート基礎ではなく、礎石(そせき)の上に柱が直に立つ石場建(いしばだ)てを第一候補とする。コンクリートの使用率を減らすという意味合いと、地震の力を受け流す目的がある。コンクリート基礎と住居が固定されていると、地震の揺れは直接住居に伝わる。石場建ての場合は、礎石の上に柱が乗っている状態なので、その石の上を柱が滑り、揺れを軽減する。ただ石場建てはどこにでも使用できるわけではないので、第一優先としながらも、その都度コンクリート基礎や他の方法が良いのか検討する。
そしてこれらの基礎は、雨水が地面から跳ね返って土壁にかからない高さを設定することになる。
○発電と蓄電
発電と蓄電も、持続可能でありながらその構造がシンプルなものが良い。プラウトヴィレッジではまず、次の電力設備の組み合わせを優先する。
まず主軸となる電力はマグネシウム電池で、東京工業大学の矢部孝教授が開発したもの。これはマグネシウムの薄い板が電池となり、保存でき、持ち運びもできる。このマグネシウムを負極側に、正極側に炭素系材料を塩水に浸すことで電気が取り出される。
これはスマホなどに使用されているリチウムイオン電池の8.5倍以上の電力量があり、水素燃料と比べて引火のリスクが少ない。また従来の電池でドローンの飛行時間は30分が限界だったが、2時間飛ばすことができ、ゴルフ場のカートも2時間ほど動かすことができる。
マグネシウムは海水に約1800兆トン含まれていて豊富にあり、これは毎年使用される石油100億トンの10万年分に匹敵する量。枯渇の可能性はひじょうに低い上に、世界中で利用できる。そして使用した後に残る酸化マグネシウムを1000℃以上で熱することで、もう一度マグネシウム電池として利用することもできる。
同教授は電力を使わず鏡で太陽光を集めて、それをレーザー光にして酸化マグネシウムに照射し、酸素を分離して再びマグネシウムとして再利用できる装置や、海水からマグネシウムと塩を取り出す淡水化装置も開発している。
実験で使われたマグネシウム電池は、幅16.3cm、奥行き23.7cm、高さ9.7cm、注水後の重さ約2キロで、出力は最大250W。冷蔵庫(450L)250Wが1時間動かせるほどとなる。これを5個、10個と連結すると、さらに大きな電力が必要な機器への給電も可能となっている。マグネシウム電池16kgを搭載した車なら、500kmを移動できると述べている。
海水を淡水化をする時に塩とにがり(塩化マグネシウム)が残るが、この塩化マグネシウムにレーザー光線を当てるとマグネシウムが生まれる。またマグネシウムは砂漠の砂などにも豊富に含まれているとしている。10tの海水からはマグネシウム13kgが取れるとし、これは1か月分の標準世帯の電力に相当する。
このマグネシウム電池を生活の基盤とすることで、世界中の海からマグネシウム電池を作り出し、枯渇の心配も小さく、保存と移動もできるため、条件が悪い僻地でも電気が使用できるようになる。
このマグネシウムを作り出す淡水化装置には電力が必要となる。そのため世界中にある河川や小川などで小水力発電を行い、電力を生み出す。落差と水量が生み出せる電力量に影響するが、日本の例では、岐阜県の石徹白番場(いとしろばんば)清流発電所の水車1つで、約150世帯分の125kWの電力が、落差111mという条件で生み出されている。
この小水力発電に加えて海や川などでの潮流(ちょうりゅう)発電も使用する。海の波は常に動いているため、潮流発電は昼と夜に関係なく安定的に電気を供給でき、構造がシンプルなため大規模設備を必要としないことが大きな理由。
そしてこれらに小中規模の風力発電を加えれば、風が吹いてる時は電力量が上乗せされる。風力発電もいくつかの種類が開発されており、垂直軸型の風力発電にすれば横に回るので全方向の風に対応できる。プラウトヴィレッジでは各自治体が製造と管理を行えるよう小中規模のエネルギー設備を各地に作り、分散してエネルギーを生み出すことを優先するため、大規模な風力発電は第一優先にならない。
ここまで述べてきたマグネシウム電池、小水力発電、潮流発電、風力発電はすべて発電過程で二酸化炭素などを排出しないため温暖化問題への対策となり、安定的で持続可能な発電方法となる。またこれら以外の他のエネルギー源も同時に使用して、自然エネルギーの多様化を目指す。
その一つに真空管の太陽熱温水器を使用して太陽熱からお湯を作り、風呂やキッチンで利用する。これは太陽の熱を集める集熱部とお湯を貯める貯湯部が一体となったもの。日本であれば夏は60〜90℃、冬は40℃前後の温度になる。
同時に太陽熱集熱パネルの使用も検討する。これは太陽熱で熱せられたパネル内の空気50℃前後が空気を運ぶ管を通り、家全体を温める暖房になる。
これらは太陽熱を利用するため、温水器と集熱パネルの設置時の方角と角度が重要になる。日本の場合、真南が最も効果的でそれを100%とした場合、真東と真西でも80%ほど確保できる。また屋根の角度は20〜30度が理想的。これを屋根や地面に置く。屋根に置く場合は、屋根の形もそれに合わせることになり、集熱面を大きくする。
この太陽熱温水機と太陽熱集熱パネルは、熱を熱として利用するので構造がシンプルになる。
次に電線がない場所の照明などへは、植物発電や超小型水力発電の利用を検討する。植物発電は2つの電極を地中に刺すことで、微弱な電力が得られるもの。ただその電力は非常に小さく、1つからは1.5ボルト前後の電圧となっている。これを100個つなげて、家庭用電源の100ボルトを超える発電が達成された実験もある。この時の電極の組み合わせはマグネシウムと備長炭が第一候補となり、レアメタルなど埋蔵資源は使用しない。
また長さ1mの持ち運びできる超小型水力発電も開発されており、小川でも高低差1mで発電でき、毎秒10リットルの水の流れで5Wの発電が可能となっている。
フィンランドでは砂電池も使用されている。これは太陽光や風力で得た電気を熱として砂に溜める。断熱タンクは幅が4メートル、高さ7メートルの大きさで、100トンの砂が入っている。この熱を周辺地域に供給し、建物の暖房や温水プールなどに使用している。500度以上に熱せられた砂はエネルギーを数ヶ月間蓄えることが可能。寿命は数十年。砂は乾燥していて可燃性のゴミが混じっていなければどんな砂でも使用でき、日本でも実現可能。
フィンランドでは人口3万5千人分の地区に熱を供給するためには、高さ25メートル、直径40メートルの砂を詰めた貯蔵タンクが必要だと計算されている。
この砂電池も構造がシンプルで、パイプ、バルブ、ファン、電気発熱体で構成され、建設コストも低いものとなっている。
アメリカでも砂電池が開発されているが、ここではケイ砂を1200℃まで加熱し、この砂を断熱コンクリート製貯蔵庫に貯める。これを電気に変換する場合は、水を熱して出てくる蒸気の力で、羽がたくさんついたタービンという水車を回す。このタービンは発電機につながっていて、電気が作られる。熱から電気をつくる場合は、この設備が必要となる。
ここまでがプラウトヴィレッジでの発電と蓄電方法となる。次にすでにある発電方法で、それを利用しない理由について見ていく。
その一つに水素がある。水素を燃料として使っている時は二酸化炭素を排出しないが、製造の過程で排出される。例えば天然ガス、石油、石炭という化石燃料から水素を作り出す方法は、二酸化炭素を大量に排出することと、やがて資源の枯渇に直面するので選択肢にならない。
また太陽光や風力など、自然エネルギーからの電力で水を電気分解し、水素を得る方法もある。これは二酸化炭素の排出量は低いが水を大量に使うため、すでに地球温暖化などで起こっている水不足がさらに加速する。
またこの水電解では、イリジウムのようなレアメタルを使う。これもこのままの使用量でいくと、2050年に埋蔵量の倍以上の使用量となり、枯渇すると予測されているので持続可能な選択肢にならない。
さらにバイオマス発電からガス、電気、水素を作り出す方法もある。バイオマスは人間や家畜の排泄物、藁やもみ殻など農業残渣(ざんさ)、食べ残し、木材など生物由来もの。例えば家庭用バイオガストイレに、牛の牛糞を入れておく。牛糞はメタン菌を含んでおり、ここに人間の排泄物や食物、雑草を入れるとメタン菌によって発酵しバイオガスが発生する。このガスの主成分は60%がメタン、40%が二酸化炭素。メタンガスは地球温暖化の主要な原因ともなっているため、全世界での使用は難しくなってくる。
水素の貯蔵には高圧圧縮、マイナス253℃に冷やす液体水素、水素吸蔵合金などがあり、その後これを輸送するための設備が必要となる。この場合、設備も大規模で複雑になるため対象外となる。
他にも太陽光発電の太陽光パネルは有害物質を含んでいて、最終処分も地中に埋め立てることになるため、持続可能な方法ではない。
地熱発電は、調査、掘削、パイプラインなど建設の時間がかかりすぎることや、使用できる場所が限定されていることなどで対象外となる。
そして原発は大惨事につながり、その燃料のウランは有限でやがて枯渇するため対象外となる。火力発電も化石燃料がいずれ枯渇し、二酸化炭素の排出量も多いので対象外となる。
また電気自動車、電動自転車、スマートフォンで使われているリチウムバッテリーは、リチウムやコバルトなど埋蔵資源を使うため持続可能ではなく、これも使用しないことになる。
ここまでをまとめると、マグネシウム電池、小水力発電、潮流発電、小中規模の風力発電が主軸となり、そこに太陽熱温水機、太陽熱集熱パネル、植物発電、超小型水力発電、砂電池を状況に応じて検討していく。
こうしてできるだけ海や川、土地から電気を作り、それを共有する。これに住居の断熱化を加え、消費電力量も下げる。こうして枯渇資源を使用せず自然エネルギーのみで生活を行う。貨幣社会では経済活動が行われ、その競争のために日々莫大な電力を消費する。この経済活動がなくなると、必要な電力量は大幅に削減され、二酸化炭素の排出量も大幅に減り、地球温暖化への強力な対策となる。
○家庭排水
自然と調和した自立型住居を構築するためには、家庭排水の問題も解決しなければならない。家庭から出る主な排水は、洗濯機、台所、洗面所、風呂場、トイレからだが、まず排水は基本として住居近くに掘った穴から地中へ浸透させる自然浸透式排水となる。簡単に言えば、穴の中に砂利や砂を敷き詰め、そこから排水を地中へ染み込ませていく。
排水には土管(陶管)を使用する。これは粘土を1000℃以上の高温で焼いて作られたもの。強度、耐食性、耐薬品性に優れ、機能寿命が長く、自然に返せる素材。
そして必ず無公害の洗剤、石鹸、歯磨き粉を使う必要がある。精油(エッセンシャルオイル)で作られた石鹸やシャンプーは、石油系原料や化学物質を使用していないので、排水後、完全に分解される。また消毒用エタノールも使える。これには殺菌成分があり、皮膚表面の雑菌の繁殖も抑えることができる。エタノールはサトウキビなど植物から作られている天然資源なので、直接地下へ還元することができ、計画的に栽培もできる。食器や衣類には70度以上の熱湯も使える。熱湯は殺菌や油を落とす特性もあり、汚れと臭いの両方が落ちる。その後に自然由来の洗剤を使う。
歯磨きについても、市販の歯磨き粉はほとんどの成分が化学物質なので、完全に分解されないため、これは使用しない。歯磨き粉にはキシリトールやフッ素などの使用も検討する。そして歯ブラシとフロスで磨く。歯ブラシだけでは歯の50%ほどしか磨けておらず、歯と歯の間の食べカスや汚れは細い糸のフロスを通して磨く。少なくとも、毎食後この2つを行わなければ、多くの人は虫歯になる。
こうしてあらゆる化学物質を使わず、排水を地下へ浸透させ、土壌を汚染することをさける。
○バイオガストイレ
トイレの排泄物の処理は、水洗式のバイオガストイレを使用する。これはバイオマス発電で、ここからガス、電気、水素のいずれかを取り出し使用する。住居には雨水タンクを設けて、水洗トイレ、風呂、給湯、洗濯に使用する。今後の水資源の枯渇問題もあり、川や湖からの水の使用量を減らす意味合いもある。
そして竹など、植物を素材とした自然分解されるトイレットペーパーを使用する。
また注意点として、バイオガストイレの浄化槽からメタンガスが仮に漏れ出した場合、それがトイレなど室内へ溜まることを避けるため、その位置や設備に配慮する。電気回路の火花によって引火し爆発した事件もある。
また地震など災害時に困ることとして、トイレの有無がある。水洗トイレは電力がなくても動くが、断水になれば水が流せないので、手動でも排泄物を便槽に移動できるようにしておけば、災害時のトイレ不足問題は解決する。
バイオガストイレが使用できない場合は、バイオトイレを検討する。この便槽(べんそう)の中には竹パウダーやおがくずなどが詰め込んであり、排泄物を竹パウダーで撹拌(かくはん)させて分解、堆肥化する。バイオトイレは水を使わず、汲み取りも不要。内部の竹パウダーは補充か交換が必要となる。バイオトイレでは大便と小便の分離方式を採用する。理由は水分が多いと発酵が進まず、尿は臭いも出るため。そして便槽は太陽熱を使用して温め、分解を促す。
また、乳児用や介護用の紙オムツは、森林を伐採して作られている。そして使用済みの湿ったオムツを燃やすためにより強い火力が必要となり、その分多くの二酸化炭素が排出される。そのため布オムツが第一選択肢になる。化学繊維のオムツを使用するとかゆみを伴うこともあるので、自然素材を使用する。どこの住居でも乳児や高齢者、要介護者が出入りするので、全ての住居に布オムツの小型洗濯機と洗浄場所を備える。その排水も自然浸透式排水方法となる。
そしてゴミの処理については、まずプラウトヴィレッジのような自給自足社会では、スーパーやコンビニがなく、商品を包むビニール袋、ペットボトル、カン、ビンなどの自然分解されない容器や包装のゴミはない。つまり残るのは生ゴミや自然分解される容器だけとなる。この処理も第一にバイオガストイレで分解され、エネルギーに変換される。もしこれが利用できない場合はコンポストを使用し、原理はバイオトイレと同じで竹パウダーやオガクズなどと混ぜ、微生物が分解する。
このように家庭排水、排泄物、食材の残りはすべて住居での処理が基本となる。排水は自己処理で土地に還元することで、海も川も澄んだ飲める状態を保ち、水中の生物も本来の豊かな状態に戻る。
○3Dプリンター
3Dプリンターはサトウキビ、とうもろこし、じゃがいもなど、デンプンから作られたPLAフィラメントを使用すれば自然環境で分解される。
プラウトヴィレッジの住居では住民が3Dプリンターを使って、地元の資源から生活品を無料で製造もする。
3Dプリンターではパソコンの画面上に描いた3Dイメージを、そのまま立体的に造形できる。そのためデザイナーが設計したデータはオンライン上で共有され、住民誰もが好きなデザインを選んだり、自分でデザインする。3Dプリンタと製造品の設計ルールは、次のようなものになる。
・生活品の素材の第一優先は、世界のどこでも採取できる原料を使用すること。
・デンプンから作られたPLAフィラメントや、丈夫で安定的に育つ竹や木材など、自然に戻せる原料で、何度も採取できる植物資源が素材の第一候補。
・再利用できる素材を使用すること。
・自然環境の汚染がないこと。
・動物由来の革などの素材は使用しない。
・3Dプリンタから3Dプリンタが作り出せる設計。これは他地域の自治体構築や災害時の復興支援が迅速に行えるように。
こういったルールに従い、製造館では製品の修理や廃家電を原料に戻して再利用することも行われる。
○電炉、溶融炉
金属は公共インフラ、住居、家電の素材となるが、鉱物資源から金属やガラスを作る際に必要となるのが溶融炉。これは小型から中型の溶融炉やたたらが基本となる。たたらは粘土でつくられた高さの低い角形の炉で、古来より伝わる原始的な方法。火起こしの素材は木炭や竹炭となる。
自治体での製品の製造数は貨幣社会と比べると減るが、それでも木炭を使用するので二酸化炭素が排出される。それが各地で行われた時の合計がどれほどかで、使用できるかが変わってくる。そのため小型から中型の電炉も検討する。自治体の再生可能エネルギーだけで電炉が動かせるなら、こちらが優先となる。
こうして鉄、銅、アルミ、ガラスなどが作られる。住民が必要な分だけを作り、ここで金属の再利用も行われる。これは高熱を扱うため、設備として可能であれば大気に放出される熱を砂電池に貯めたり、竹の油抜きなどに使用する。
○小規模な半導体工場
身の回りの家電や電子機器にはほとんどが半導体が使われている。半導体は小さな部品で、電波を飛ばして通信したり、スピーカーの音量の大きくしたり、モーターを制御したり、計算やタイマーをセットするために必要な部品。
半導体は何千億円、何兆円とする工場で作られることが多い。ただあらゆるものを自給自足する社会においては、これも自治体で必要分を作って消費する地産地消となる。そのため、3Dプリンターのように小型化したものが集まった小規模工場にする。
半導体の他に抵抗器、コンデンサ、変圧器、ダイオード、トランジスタなどの部品を乗せたプリント基盤は、3Dプリンタで製造することが前提となる。
このような流れで鉱物から金属素材を得て、小規模工場で作り出した半導体やプリント基盤を製品に組み込む。大規模工場ではなく、小規模工場で、できるだけ地元の資源で完了する。そうすることにより必要最低限の製造数と、環境負荷を限りなく低くした物作りが実現される。また、これにより主要な部品を誰かが独占することなく利用できる状態にする。これも自治体の製造館に作られる。
○コンクリートの限定的使用
貨幣社会では世界中の道路舗装に、アスファルトとコンクリートの二つが使用されている。一部の街では石畳の道路を用いて景観向上に努めている場所もあり、この場合もコンクリートが使われることもある。またトンネルや地下鉄の壁にも、コンクリートは使用されている。
アスファルトは原油から作られるため、製造過程で二酸化炭素を排出する。コンクリートの場合、土などを固めるセメント素材の中に石灰石(せっかいせき)が使用され、これを900℃以上の高温で燃やすと生石灰(せいせっかい)となり、二酸化炭素が放出される。また燃やすためにも石油や石炭など化石燃料を使い、二重で二酸化炭素が排出される。一部の統計では、セメント製造から排出される二酸化炭素は、世界全体で8%、日本では4%とされている。
コンクリート使用の理由は、車など重いものが走るため道路には強度が必要になることや、滑らかに走れることで車側のエネルギー消費を抑えるため、ビルやマンションなど大きな建築物には強度が必要なためや、安価で手に入れられるようになったなどの側面がある。
日常生活の様々な場所で、大量のコンクリートが使われている。そしてその過剰使用で、それに適した砂や砂利が世界的な枯渇に直面しており、国家間で砂の争奪戦も起こっている。そのため砂の採取を制限する場所も出てきている。セメントの素材となる石灰石も埋蔵量は豊富とされているが、それも有限のもので、過剰使用すればいつかはなくなる。
この過剰使用の根底にはお金を稼ぐためという理由があり、それは国も企業も個人も同じ。コンクリートは生活に不可欠なものとなっているが、二酸化炭素排出量を抑えて気候変動にも対処しなくてはならない。そのため、コンクリートを生活のどの部分に使用するのかを限定して、全体の使用量を減らす必要がある。
例えばプラウトヴィレッジでは、ビルやマンションなどコンクリートで作られた建築物を作ることはないので、その分の使用量を削減できる。また住宅の基礎もまずは石場建てが第一優先なので、コンクリート基礎の使用量は減る。柱は早生桐、壁は藁なので、コンクリートが使われることはない。
住民の移動方法も、自治体内では時速20kmの自動車で移動し、中長距離の自治体間には電車を利用する。そのため高速道路のコンクリートの使用もなくなる。
ただ電車の線路にはコンクリートが必要になり、強度が必要なトンネルや橋へのコンクリートも使用される。自治体内の道路もコンクリートを使う必要があるが、貨幣社会の都市のように網の目に道路を張り巡らす必要はなく、必要最低限の使用にとどめる。この道路は石畳を第一優先とし、そうすることでコンクリートの使用量をさらに抑えることができ、自治体の景観もよくなる。あとは堤防や必要であればダムなどへの使用となる。
このように全体的なコンクリートの使用量を減らし、加えて貨幣社会でなくなれば、放出される二酸化炭素を大幅に削減できることになる。
コンクリート用の石灰石は世界中で採取でき、アスファルト用の石油は限定的。石油は枯渇が目前に迫っているので、道路の舗装はコンクリートが第一選択肢となる。
そしてすでに作られたコンクリートを再利用する技術も開発されているので、それが使えるのであればそれが第一優先になる。
また日本には、大型建設機がない明治時代に生み出された人造石(長七たたき)も存在する。これは湾港建築や用水路などの大規模工事にも用いられた。人造石は花崗岩が風化してできた真砂土(まさつち)10と石灰1の割合で混ぜた物。真砂土が得られない場所では、適した粘土や火山灰土などを使う場合もあった。
人造石は水の中で固まる性質があり、練り土と自然石とを組合せ、堤防や水門などの骨組みの外側に厚い保護層を形成して使用された。この場合、自然石同士の間に練り土を10cmほど入れ、石と石は互いに接触させない。そして突き棒などで上から叩き締めて圧縮する。このため多くの人手が必要となる。
そしてこの人造石は自然に戻せるものとして評価されていることもある。そのため強度の面などで自治体の道路などに使用できるなら、これも選択肢となる。
さらにこれが発展して、土100、砂40、消石灰30、にがり水を配合して固める方法もあり、これを壁にして作った家も存在する。
この場合、土の種類によってそれを固める硬化剤も変える。砂を多く含む土の場合、硬化剤にはセメントを使い、粘り気のある土には消石灰(しょうせっかい)を使う。消石灰は生石灰に水を加えて作られる。土の特性によって混ぜる素材と割合が変わり、土の固まり方が変わる。
今後、石灰石を使わずコンクリートのように土を固める方法が出てくれば、それが選択肢になる可能性もある。しかし現時点ではコンクリートの使用を限定的にして、脱貨幣社会もすることで、二酸化炭素の排出を限りなく抑える。
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