■紀元前138億年頃
宇宙誕生
宇宙が最初に生まれたビッグバンの瞬間、宇宙が素粒子ほどの大きさだった頃。宇宙の始まりに光はなく、見えるようになるのは宇宙誕生から30万年ほど経ってから。
誕生後の宇宙は、原子、電子、原子核がバラバラ。原子が物質として固まっていなかったので、電子は自由に飛び回っている状態。宇宙が膨張して冷え、ドロドロとした宇宙が透明になり、中がスカスカになると、電子が原子核につかまって原子ができるようになる。そして物質として固まるので、自由な電子はなくなる。フラフラ漂っていた電子がなくなるので、隙間がたくさんできて、光が直進できるようになる。こうして物質が固まって光が見えるようになるまでに、30万年かかった。
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参考文献
面白くて眠れなくなる素粒子 / 竹内 薫
ホピ族の宇宙創造神話
北アメリカの先住民ホピ族にも2匹の蛇のシンボルが見られた。そのホピ族の神話には宇宙創造について次のように語られている。
(第一の世界トクペラ)
最初の世界はトクペラ(無限宇宙)といい、当初は創造主タイオワだけがいた。あとは全て無限宇宙。始まりも終わりもなく、時、空間、形、生命もなかった。無の世界のみがあった。次にこの無限者は有限を生み出し、ソツクナングを創造してこう告げた。
「私は無限宇宙で生命を造る計画を実行するため、あなたを人として第一の力と器に造った。つまり祖父であり、あなたは甥(おい)だ。さあ、計画どおり互いに調和して働くよう、宇宙を秩序正しく整えるんだ」
ソツクナングは無限者の指示通りに計画を進め、無限宇宙から個体として現れるものを集めた。そして7つの宇宙を作った。それを終え、ソツクナングはタイオワに「これはあなたの計画に沿っているか?」と尋ねると、「上出来だ」とタイオワは答え、さらに次のように述べた。
「水も同じように創造してほしい。これら宇宙に水を置いて、それぞれを等しく分けるんだ」。
ソツクナングは無限空間から水として現れるものを集め、それを各宇宙に置き、それぞれが半分個体、半分液体となるようにした。彼はタイオワに言った。
「わたしの仕事は、あなたの意にかなったものでしょうか」。
するとタイオワは次のように答えた。
「上出来だ。次に、風についても同じように頼む」。
ソツクナングは無限宇宙から風となるものを集め、それを各宇宙のまわりを穏やかに動くように配置した。タイオワはこれを喜び、
「甥(おい)よ、私の計画に従ってよく仕事をしてくれた。あなたは宇宙を創造し、個体、水、風を作って正しく配置した。だがまだ完成ではない。生命を造り、私の宇宙計画の四つの部分ツワカキを完成するんだ」
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参考文献
ホピ 宇宙からの聖書―神・人・宗教の原点 アメリカ大陸最古のインディアン
創世神話に共通する「無」
ホピ族でいう無限宇宙や創造主タイオワは「無」で、それは世界各地の創世神話で様々な言葉で表現されている。この無から神が生まれ、その神が天地や人間を創造する形式となっている。これは宇宙誕生のビッグバンも表している。
・ナイジェリアや西アフリカに分布するフラニ族の神話では、巨大な一滴の乳。始まりのとき、巨体な一滴の乳以外には何もなかった。それから創造神ドゥーンダリがやってきて、石を作り出した。石は鉄を作り、鉄は火を作った。火は水を作り、水は空気を作った。ドゥーンダリは再び地上に降りてきて五つの元素から人間を作り出した。
・西アフリカのマリ共和国のドゴン族では、はじまりの世界には宇宙すらなく、天の創造神アンマのみが存在していた。アンマは言葉から宇宙を生み、次に最初の生命キゼ・ウジを創造し、キゼ・ウジは原初の子宮の「世界の卵」を産む。
・西アフリカのダホメのフォン人では、先駆的に存在していた物質。ここから神マウ・リサは宇宙を創造し、形成し、そして秩序づけた。マウは女性でリサは男性。蛇の力が夫婦神マウ・リサの息子ダに体現され、この宇宙の秩序づけを補助している。蛇が虹の中に現れるとき、「男性は赤い部分で、女性は青い部分である」。ダは大地の上方で3500のとぐろを巻き、下方でも同じ数のとぐろを巻き、これらのとぐろはマウ・リサの創造を助けた。
・ナイジェリアのヨルバ族では、沼地のようなカオス。最初、世界はじめじめとした、海でも陸でもない沼地のようなカオスであった。その上の空には至高神、オロデュマレ神が住んでおり、偉大なるオリサンラ神に世界を創るよう命令し、陸と海が作られる。天上ではオロデュマレが最初の人間を創りはじめた。
・別のヨルバ人の伝承では、茫漠(ぼうばく)たる荒れた沼地。狩猟者オグンはもともとは大地が形づくられるより以前に存在していた茫漠(ぼうばく)たる荒れた沼地に、蜘蛛の糸によって降りてきた。
・中央アフリカのピグミー族では至高の霊コンヴム。「はじめに神がいた。今日も神がいる。明日も神がいるであろう」。形がなく永遠なコンヴムは、動物(普通はカメレオン)の仲介によって人間と接触している。世界の創造の後で、彼は天空から地上へ最初の人間たち(ピグミー族)を降ろした。その後、多様な動物と植物を提供した。
・中央アフリカのクバ族の神話では水。世界の最初にはただ水しかなかった。そこで巨大な創造神ブンバは、嘔吐(おうと)して、太陽、月、星を吐き出した。これらによって光が生じて、世界に熱が生まれ、水が乾いていった。
・オーストラリアのアボリジニ神話の一つでは、無限の砂漠。この世の始めに、虹蛇のエインガナはたった一人で無限の砂漠に横たわっていた。エインガナはそれに飽き、地上に存在する全ての生き物を生み出した。
・別のアボリジニ神話では、海しかない世界。根元神で虹蛇のウングッド(ウングル)は、海しかない世界で海底の泥が集まって生まれ、己しかいない寂しさを失くすために命を生みだそうと考える。 そこでまずブーメランで海を撹拌(かくはん)して泡立て、その泡で巨大な大地を作り上げ、そこに無数の卵を産んで生命を増やしていった。
・タヒチでは闇。世界に何も無く闇だけの頃、タンガロアが住む大きな貝殻だけがあった。タンガロアは自分の住んでいた貝殻をゆっくりと高く高く持ち上げた。それは大きな天の半球となり、空(そら)になった。
・ミクロネシアのマリアナ諸島の神話では虚無。世界最古の存在は、プンタンという巨人とその姉妹で、かれらは虚無の中でただ二人きりで暮らしていた。プンタンは死ぬ前に姉妹に遺言して、自分の世界から世界を造らせた。彼の胸と肩から天と地が造られ、両目は太陽と月となり、まつ毛からは虹ができた。
・ポリネシアのツアモツ諸島では、アテアという原初の動く天空空間、形のない存在。アテアとその妻ファアホトゥから最初に生まれたのが呪術師(じゅじゅつし)タフ。
・ポリネシアのタヒチ島では創造神タアロア。タアロアは「孤独のうちに成長した。彼には父も母もおらず、自分が自分自身の両親であった。タアロアの原始状態は理解を超えていた。彼は上でも下でもあり、石のなかにもいた。タアロアは神の家であった。彼の背骨は棟木(むなぎ)となり、彼の肋骨(ろっこつ)は支えとなった」。次にこの神は殻を割り、生まれ出て、砕けた破片の上に立ち上がった。原初の暗闇のなかを凝視して、彼は自分がたった一人であることを理解した。(中略)彼自身の姿を人間の姿として、この神は現在宇宙にある万物を創造した。異説では、タアロアは、自分の身体の頭以外の部分から宇宙をつくった。
・ハワイのクムリポという神話では、昼のない永い夜ポー。地母神パパと天空神ワケアが固く抱き合っていたため、外から光が射し込めなかった。このポーの暗闇からサンゴ虫、次にフジツボとナマコ、魚植物、爬虫類、鳥、犬や豚、神々が生まれた。神々は抱き合ったパパとワケアを無理やり引き離し、世界が光で満ちあふれた。その後、人間も生み出された。
・エジプト神話では、原初の大洋ないし混沌ヌン。混沌ヌンからラー(アトゥム)が誕生した。
・バビロニアの創世記叙事詩エヌマ・エリシュでは、父親で淡水の海アプスーと混沌を表す母ティアマト。はじめにアプスーがあり、すべてが生まれ出た。混沌を表すティアマトもまた、すべてを生み出す母であった。
・ギリシャ神話ではカオス(混沌)。天と地と海が造られるまで世界は見渡す限りただ一つで、カオス(混沌)と呼んだ。それは一つの混乱した形のない塊(かたまり)で、おそろしく重たい物であったが、その中には物の種子が眠っていた。神と自然がついに手をくだして、海から地を切り離し、地と海から天を切り離して、その混乱を整理した。
・イスラム教の聖典コーランでは無。神アッラーはまず無から万物を創造し、またそれを引き返し給(たま)う。アッラーは天と地を無から創り出し、暗闇と光を置いた。彼こそは生ける神、永遠(とわ)に在るもの。
・ユダヤ教に基づいた神秘主義思想カバラでは、アイン(無、0)。アインからアイン・ソフ(無限)が生じ、アイン・ソフからアイン・ソフ・オウル(無限光)が生じた。
・キリスト教の新約聖書のヨハネによる福音書では、言(ことば)。初めに言(ことば)があった。言は神と共にあった。言は神であった。この言は、初めに神とあった。万物は言によって成った。
・キリスト教の旧約聖書の創世記では「無」に該当する名称はないが、その後の神が登場する。「はじめに神は天と地とを創造された。地は形なく、むなしく、やみが淵のおもてにあり、神の霊が水のおもてをおおっていた。神は『光あれ』と言われた。すると光があった。神はその光とやみとを分けられた。神は光を昼と名づけ、やみを夜と名づけられた。夕となり、また朝となった。第一日である。」
・イラクのクルド人のヤズィーディー教でも「無」に該当する名称はないが、その後の神が登場する。「神は自身の顕現(けんげん)である七大天使を生み出した。また神は壊れた真珠のような球から宇宙を作り、七大天使の長で孔雀の姿をしたマラク・ターウース(Melek Tawusi)を地球へ送る。地球には神によって作られた不滅で完璧なアダムがいた。」
・グノーシス主義ヴァレンティノス派では、原初・原父プロパトール。唯一存在したプロパトールが諸アイオーンを創造した。またヌースというアイオーンがキリストを生んだ。
・グノーシス主義セツ派では、至高神で両性具有の見えざる霊。そこから最初のアイオーンであるバルベーローが生まれる。
・グノーシス主義オフィス派のバルク書では、初めに何ものからも生まれずに存在した三つの原理。第一の原理は「善なる者」、第二の原理は「万物の父」または「エロヒム」、第三の原理は「エデン」または「イスラエル」と呼ばれた。
・ゾロアスター教の聖典アヴェスターでは無限時間(ズルワン)。「牛と天則を創造し給い、水とよき草木を創造し給い、もろもろの光明と大地と一切のよきものを創造し給うたアフラ・マズダー(スプンタ・マンユ)を、このようにわれらは崇める」。アヴェスターの中では、「無限時間」と「アフラ・マズダー」の登場箇所は異なる。
・後期ゾロアスター教のズルワン派では、ズルワーン(無限の時)。ズルワーンからアフラ・マズダなどが生まれた。
・北欧神話がまとめられた書物エッダでは、底なしの大洋と霧のような世界。霧の世界の南方の光の世界の空に雲ができ、その雲からユミルと呼ぶ霜(しも)の巨人およびその一族と、牝牛(めうし)のアウズンブラが生まれた。アウズンブラから生まれた人間の姿をした神は、オーディン、ヴィリ、ヴェーという三人の兄弟を作った。
・フィンランド神話カレワラでは、原初の海洋。世界の初めには大気の娘であるイルマタルがひとりで原初の海洋の上を漂っていた。
・ルーマニアの神話では一面の水。世界が創造される以前には、ただ一面に水だけがあり、その上に神と悪魔が居た。神は陸地を造ることに決め、悪魔に海の底に潜って、神の名によって大地の種を採って来るよう命令した。
・古代インドの聖典バガヴァッド・ギーターではいくつかの名前で呼ばれている。聖バガヴァッド、プルシャ、ブラフマン、アートマン、クリシュナ、本初の神、私など。「私は一切の本源である。一切は私から展開する。古(いにしえ)の七名の大仙と四名のマヌは私と同じ性質を有し、私の意(こころ)から生じた。彼らから世の生来(せいらい)が生じた。」
・古代インドの聖典マハーバーラタの第一巻では大宇宙。遥かな太古、未だ輝きも光もなく、闇一色に閉ざされていた大宇宙に、一切の被造物の尽きざる種子である大いなる「卵」が出現した。それはマハーデーヴァ(大いなる神、シヴァ神の別名)と呼ばれ、ユガ(時間)の始まりととともに産み出された。その中には「ブラフマー」が存在していた。この卵からピターマハ、マヌ、ダクシャとその七人の息子、水、天界、大地、空気、空、季節、週、日、夜などが誕生した。
・古代インドの聖典チャーンドーグヤ=ウパニシャッドでは無。「太初において、この無こそ存在した。それは常に存在した。それは展開した。かの卵が生じた。それは一年の間横たわっていた。その卵は(二つに)割れた。卵殻の一つは銀色になり、他の一つは金色になった。この銀色のものは大地であり、金色のもとは天である。(中略)この世に存在する一切のものと、あらゆる欲望とが現れた。」
・仏教の般若心経(はんにゃしんぎょう)では空(くう)。色即是空(しきそくぜくう)は「万物(色)を本質的に突き詰めると実体は存在しない(空)」の意味。
・チベット仏教の14世紀の王統明鏡史(おうとうめいきょうし)では、ただ際限のない空虚な空間。そこに十方(じっぽう)から風が起こり交錯(こうさく)しあって、十字の風といわれる風輪ができ、様々なものができていく。
・南アジア、アホム族の神話では太洋の水。始まりのとき、神も人間もいなかった。太洋の水が虚空を取り巻いていた。天地はまだ存在しておらず、空気もまだなかった。ただ全能の存在である「偉大な神」のみがいて、彼は巣の中のミツバチの群れのように浮遊していた。彼は宇宙に秩序をもたらし、大地を住める場所に変えた。
・フィリピンのタガログ族の神話では海と天。世界が始まったとき、陸地はなく海と天だけがあった。海と天の間にトビという鳥がいた。陸風と海風は結婚し、竹の姿をした子供をもうけた。ある日、この竹は水の中を漂っている間に、波打ち際でトビのあしを打ってしまった。怒った鳥が足をつつくと、突然ある部分から男が、別の部分から女が現れた。彼らは多くの子供を作り、そこからすべての人種が生まれた。
・モンゴルの創成神話では水。天地創造以前は一切が水であって、天も地も存在しなかった。そのとき神々の中で最高の神であり、全ての存在の創(はじ)めであり、人類種族の父であり母であるテンゲル・ガリンハン(テングリ・ハイラハン)が現われ、先ず自分と同じような形態の人間を作った。
・モンゴルの別の創成神話でも水。はじめ水だけがあり、天から仏教の神ラマが鉄の棒を持ってやってきて、かき混ぜはじめた。すると風と火が起こり、その水の中心部が厚くなって地球が誕生した。
・ブリヤート・モンゴル族の神話では原初の海洋。原初の海洋の上に、創造神ソンボル・ブルカンがいて、最初の陸地を作った。
・中国神話の三五歴紀(さんごれっき)では、卵の中身のように混沌とした状態。その中に盤古(ばんこ)が生まれ、天地が分かれ始めた。
・中国の道教では、道(みち)やひっそりして形のないもの。何かが混沌として運動しながら、天地よりも先に誕生した。それはひっそりとして形もなく、ひとり立ちしていて何者にも依存せず、この世界の母ともいうべきもの。別の箇所では、無という道(みち)は有という一を生み出し、一は天地という二を生み出し、二は陰陽の気が加わって三を生みだし、三は万物を生み出す、とある。道(みち)を神格化したのが太上道君(たいじょうどうくん)。
・中国の陰陽思想では、原初の混沌(カオス)。この混沌の中から陽の気が天となり、陰の気が地となる。 原初の女「太元」は陰陽を含むという神話もある。
・古代中国の書物「易経(えききょう)」では太極(たいきょく)。太極は万物の根源であり、ここから陰陽の二元が生ずる。易経の著者は伏羲(ふっき)とされ、伏羲は2匹の蛇の体を持っていたので共通シンボルという結論だった。
・中国のバイ族に伝わる神話では大洋。大洋の底で眠っていた巨大な原初の黄金の竜が騒ぎによって目覚め、その腹から最初の祖先たちが生まれた。
・韓国の済州島(さいしゅうとう)に伝わる天地開闢(てんちかいびゃく)の物語では混沌。昔、世界には天も地もなく混沌のみがあった。ある時、混沌の中に隙間が生じ、天地王ボンプリが生まれた。
・日本書紀では、鶏(にわとり)の卵のような混沌。その時天地の中に一つの神、国常立尊(くにのとこたちのみこと)が生まれた。
・日本の古事記では高天原(たかあまはら)。「天と地が初めて現れた時に、高天原(たかあまはら)に成った神の名は、天之御中主(あめのみなかぬし)の神、次に高御産巣日(たかみむすび)の神、次に神産巣日(かみむすび)の神」。つまり天地が現れた時から存在し、神が生まれ出てくる高天原(たかあまはら)とは「無」のこと。
・北海道南部のアイヌ民族の伝承では、まだ何もない時。昔、この世に国も土地もまだ何もない時、ちょうど青海原(あおうなばら)の中の浮き油のような物ができ、これが空となり、残った濁ったものが島(現北海道)となった。その内、モヤモヤとした気が集まって神カムイが生まれ出た。
・シベリアのレナ川沿いに住むヤクート人では原初の海。はじめ、白い創造主であるイリン・アイ・トヨンは原初の海の上を動いていたとき、袋が浮かんでいるのに気がついた。袋は、自分は悪の霊であり、水の下に隠された地面の住人であると告げた。そこでイリン・アイ・トヨンは「もし本当に海の下に大地があるのなら、急いでその1片を私のところに持ってきなさい」と言った。悪霊は袋から出て海に飛び込み、手に1杯の土を持って帰ってきた。白い創造主はそれを祝福して海面に置き、その上に座った。悪霊はその地を引き伸ばしてイリン・アイ・トヨンを溺れさせようとしたが、引き伸ばすほどそれはより強固なものとなり、ついには全くの大陸が存在するに至ったのを見て驚いた。
・北アメリカの先住民ホピ族で「無」は創造主タイオワ、トクペラ(無限宇宙)。トクペラからソツクナングが生まれ、宇宙を作った。
・北アメリカの先住民チュフウフト族の神話では、水と暗闇。始まりのときには水と暗闇しかなかった。暗闇が押し寄せては分かれ、とうとう暗闇が濃密に集まった場所のひとつからひとりの男が現れた。男は次のように歌った。「世界はそこにある。こうやって私は世界を作る。ごらん、世界はここにある。世界は仕上がった。」
・アメリカのカリフォルニア州南部のディエグェノ族の創成神話では、原初の塩の海。原初の塩の海から二人の兄弟が現れ、最初に大地を、次に月と太陽を、そして最後に男と女を生み出した。
・カナダのハイダ族の伝承では、原初の海。原初の海からワタリガラスが飛び立ち、ハイダ・グワイ(クイーン・シャルロット諸島)を出現させた。
・マヤ文明の神話ポポル・ヴフでは、ただ静かな海と限りなくひろがる空。創造主(ツァコル)と形成主(ビトル)、テペウとグクマッツ(ククルカン)、アロムとクァホロムだけが水の中で輝いていた。テペウとグクマッツが叫ぶと水の中から大地、山々が生み出され、その後、動物なども作られた。
・南アメリカのコロンビア辺りに住んでいたチブチャ人では闇。始め、世界は闇の中にあり、光はチモニガグワと呼ばれる万物の創造主の中に閉じこめられていた。世界の創造は、創造主の中に閉じこめられていた光が外に向かって輝き出たことから、始まった。
・チブチャ人の別種の神話では、光が創造される以前、世界がいまだ暗闇に包まれていた頃、そこにはイラカと彼の甥であるラミキリの二人しかいなかった。世界に自分たち以外の人間がいないことにうんざりした二人の酋長(しゅうちょう)は黄色い粘土で小さな像をつくり、それが男たちになった。ケックの茎を人形に切ると、それが女たちになった。
・南アメリカのペルー沿岸地域のインディオの神話では、この世のはじまりのとき、北のほうからコンという一人の骨なしの男がやってきた。ただ単純に自らの意志と言葉の力をつかうだけで、山を低くし、谷間を隆起させ、自らの進む道を容易にした。彼は自らがつくった男と女たちをもって土地を満たし、彼らに多量の果物やパン、その他の生活の必需品を与えた。
「無」の表現は他にも、絶対無(ぜったいむ)、創造主、魂(たましい)、霊魂(れいこん)、霊体(れいたい)、永遠、沈黙、静寂、意識、真我、愛、存在のすべて、大いなる存在、大いなる神秘、大いなる知性、グレート・スピリットなどの表現がある。
チベット仏教のチベット死者の書では、空を意識としている。
「空なるものの本質は明晰(めいせき)であり、明晰なるものの本質は空なるものである。明晰であり空であることが不可分(分けたり切り離したりできないこと)となっている意識は、赤裸々で生のままにむきだしの状態のものである。あるがまま、自然のままで無造作の状態のものである。これこそが本質を構成する自性身(じしょうしん=スヴァバーヴァ・カーヤ)にほかならない。そしてまた、この自性身自体の働きは、他に妨害されることがなくて、何にでも現れることができる。それが慈悲を本質とする化身(ニルマーナ・カーヤ)なのである。」
「汝の身体は、潜在意識が形をとったものである。空なる意識からできた身体にほかならない。」
つまり空である無は意識のことを指している。
グレート・スピリットはネイティブ・アメリカンの創造主で、大いなる神秘のこと。スピリットは日本語で言えば魂(たましい)。魂は霊魂(れいこん)、霊体(れいたい)とも同じ。「魂は不滅」という表現も、魂である「無=意識」は不滅ということ。ギリシャ神話では霊魂のことをプシュケと呼び、そこに登場する神の名でもある。インドでは霊魂を示す言葉としてアス、マナス、プラーナ、アートマンといった言葉がある。
このように無から神が生まれ、そして天地や陰陽が作られ、宇宙が誕生し、太陽、月、地球、大地を作り、谷、川、動植物、人間などあらゆる生物を作ったという共通点が各神話で見られる。そしてこの天地創造の物語はビッグバンを表している。つまりこの宇宙は意識である「無」より作られたということを意味している。そしてこのビッグバンによって宇宙が誕生する前には、意識のみが存在したということでもある。
中国の陰陽思想を表す太極図(たいきょくず)は、太極のなかに陰陽が生じた様子が描かれている。太極は原初の混沌である無を表し、そこから陰陽に分かれる天地創造のビッグバンを表したものが太極図ということ。
またここでは無は卵として表現されていることも見られたが、これは宇宙卵(うちゅうらん)と呼ばれ、世界各地に石球として見られた。
エジプト神話の原初の大洋ヌンから生まれたラーやアトゥムには、太陽、紀章ウラエウス、手の十字のアンク、ウアス杖のシンボルが見られ、これらも共通のシンボルということ。このラー、アトゥムに相当するのが、上記にあるように日本では国常立尊(くにのとこたちのみこと)、ホピ神話ではソツクナングなど。
左からラー、アトゥム。
聖典バガヴァッド・ギーターで無を象徴する聖バガヴァットは「私はルドラ神群におけるシャンカラ(シヴァ)である」と述べている。このヒンドゥー教の主神シヴァは共通シンボルである1匹の蛇を首に巻き、三日月の装飾具、3つの刃がついた三叉槍(さんさそう)という武器などを持つ。つまりシヴァも共通シンボルも無を表したもの。またそこに出てきた聖バガヴァットと同一のプルシャ、ブラフマン、アートマン、クリシュナ、本初の神も、意識である無を表したものということ。
同じくバガヴァッド・ギーターで「私(プルシャ、ブラフマン、=無)は武器のうちのヴァジュラ(金剛杵)である。」と述べられている。その金剛杵もアイオーンの胸に見られる。つまり共通シンボルも無をシンボル化したもの。
1匹の蛇や三日月のシンボルが見られたサバジオスの手には2匹の蛇も見られたが、インドの蛇神(じゃしん)ナーガラージャや、古代中国の神の伏羲(ふっき)と女媧(じょか)も2匹の蛇の体で、無のシンボルという結論。中国のバイ族の神話には竜が出てきたが、竜も共通シンボルという結論で、ヨーロッパではドラゴンとなる。
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参考文献
なぜ神々は人間をつくったのか―創造神話1500が語る人間の誕生
シリーズ 世界の宗教 WORLD RELIGIONS アフリカの宗教 / A・M・ルギラ 嶋田義仁訳
天地創造99の謎 世界の神話はなぜ不滅か / 吉田敦彦
宇宙の共通デザインの黄金比、渦模様、ドーナツ型、2極
共通シンボルである黄金比と渦模様は、自然の様々なものにも見られる。黄金比の曲線(赤線)は物体の中心点を通ることが多いが、正円(青線)の場合は通らない。
台風の渦にも見られる黄金比。2013年の台風Soulik。
2018年の台風Jebi。
2003年のアイスランド付近のサイクロンの黄金比。
りょうけん座にある子持ち銀河の黄金比。直径およそ10万光年。地球からおよそ3700万光年離れたところにある。
天の川銀河。地球のある太陽系を含み、地球から見えるその帯状の姿は天の川と呼ばれる。1000億の恒星がある。
おおぐま座にあるM101。回転花火銀河とも呼ばれる。
ペガスス座の棒(ぼう)渦巻銀河のUGC12158。
しし座の棒(ぼう)渦巻銀河のUGC6093。
植物のような小さなものから銀河のような巨大なものまで黄金比が見られるということは、人間がまだ行ったこともない宇宙の果ても黄金比と渦模様でデザインされている可能性が見えてくる。黄金比の螺旋(らせん)状の渦は拡大しても縮小しても永遠とどこまでも続き、始まりも終わりもない。つまり「無」と同じ真理を表している。黄金比と渦模様は宇宙を形作る組み合わせで、普遍の真理を表している。またこの広大な宇宙も偶然ではなく、秩序を持って作られている。
創成神話で見られたように宇宙が誕生する前に、無から神が生まれ、ビッグバンによって宇宙が生み出された。そして実際にこの宇宙には銀河から植物、そして古代の出土品にまで黄金比が見られる。つまりこの宇宙の全てを設計、デザインしたのは意識である「無」ということが見えてくる。
そして宇宙そのものの形にも黄金比が見られる可能性が出てくる。宇宙の形として考えられるのがドーナツ型(円環面”えんかんめん”)。これを真上から見ると、黄金比の渦模様で流れが上昇してくる。
理由は次の通り。まず、台風を真上から見た時に渦は黄金比になっていた。
その台風を横から見ると、風の流れは下から渦を巻いて中心部分を上昇し、頂上で外に広がるドーナツ型となる。
台風と同じ流れを示すのが地球、木星、太陽などに生じる磁場(じば)。これもドーナツ型となっている。
磁石に必ずN極とS極が一対(いっつい)で存在するように、巨大な磁石である地球にも2つの磁極がある。この磁場の流れは、磁石と砂鉄(さてつ)でも見られる。
古代中国の易経(えききょう)の著者は2匹の蛇が見られる伏羲(ふっき)とされ、そこでは、万物の根源である太極(たいきょく)から陰陽の二元が生じたとある。陰陽とは正と負、プラスとマイナスであり、磁石と同じく両極で一対(いっつい)のこと。つまりドーナツ型は二極があるため成り立つ形で、ビッグバンの瞬間に宇宙はドーナツ型で誕生した。
そして水、酸素、鉄、カルシウム、人間、地球など、この宇宙にあるすべての物質は、原子というこれ以上分けられない小さな粒が集まってできている。原子は正の電荷(でんか)を帯びた原子核(げんしかく)と、負の電荷を帯びた電子からできている。宇宙空間は完全な真空状態ではなく、全体にわずかながら星間物質と呼ばれる希薄物質が漂っている。例えば宇宙空間に漂う水素やヘリウムを主体とした星間ガスなど。これらも原子でできている。つまりその原子で溢れている宇宙も正と負の電荷でできている。
次の左の図は原子。真ん中にあるプラスの赤い丸と緑の丸が原子核。そのまわりにあるマイナスの黄色い丸が電子。右の図はヘリウム原子のモデル。電子が黒い雲状に描かれている。
このように宇宙のあらゆる物質は正と負の電荷を持つ原子でできており、加えてドーナツ型と黄金比の渦模様という共通デザインで設計されている。こういった理由から、宇宙そのものもドーナツ型をしているか、それに関連した形という結論。
では宇宙を同じ方向に向かって進んでいけば、いつかドーナツ型の壁に衝突するのかと言えば、それは起こらない。黄金比は始まりも終わりもない渦模様を描いているが、それは「無」と同じ真理。台風や地球の磁場の流れがドーナツ型で循環して始まりも終わりもないように、宇宙にも端(はし)がなく、空間は曲がっていて、一直線に進んでいても徐々に空間の湾曲(わんきょく)に沿って一周してくる。
N極とS極は止まることなく循環している。仏教用語の諸行無常(しょぎょうむじょう)は、この世の存在(森羅万象)はすべて、姿も本質も常に流動変化するものであり、一瞬といえども存在は同一性を保持することができないことをいう。また盛者必衰(じょうしゃひっすい)のことわりとは、この世は無常であり、勢いの盛んな者もついには衰え滅びるということ。万物が止まらず流動する理由も、この宇宙がN極とS極、陰陽、正負、プラスとマイナスからできていて、二極を止まることなく巡るからであり、それがこの宇宙の真理となっている。
そして宇宙のあらゆるものがN極とS極を行ったり来たりしていることから、銀河や太陽系もそれ自体がドーナツ型の流れで宇宙を移動している。
またこのドーナツ型は果物や野菜の断面にも見られ、宇宙の共通デザインに沿って進化してきている。
そして人間や生物に男女、オスメスがあるのも、右手、左手というように左右2つに分かれているのも、2極性で表されているため。そして頭頂の旋毛(つむじ)が渦巻いているのも、同じく宇宙の共通デザイン。
■紀元前124億年頃
渦巻銀河BRI 1335-0417
ビッグバンから14億年後の渦巻き構造を持つ銀河が発見されている。これはBRI 1335-0417と呼ばれ、南米チリのアタカマ砂漠のアルマ望遠鏡の観測データから見つけられた。地球がある天の川銀河の1/3ほどの大きさ。中心部の明るい部分の上下に、渦巻き構造が見えている。
Image Credit:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), T. Tsukui & S. Iguchi
Source:国立天文台/アルマ望遠鏡
■紀元前46億年頃
太陽系、太陽、地球の誕生
銀河系には約2000億個の星があるとされ、その中では、太陽系のような小さな天体がいくつも集まり、この銀河宇宙を形成している。太陽系と太陽の誕生は紀元前46億年頃、地球の誕生は紀元前45億年頃とされている。黄金比の渦模様やドーナツ型が見られる銀河や星という概念の生みの親も、無という結論。
星と生命の誕生過程
宇宙空間は完全な真空状態ではなく、星々の間には所々に微粒子とガスでできた星間雲(せいかんうん)が存在する。 星間雲の中で最も密度が高い領域を星間分子雲(せいかんぶんしうん)と呼ぶ。この領域は星の形成が活発な場所。太陽のような自ら光を発する星がその一生を終えるとき、大規模な爆発現象の超新星(ちょうしんせい)が起こり、その衝撃波が星間分子雲にぶつかり、それに押されて密度の濃い領域ができ、そこから新たな星が生まれる。
星は星間分子雲のガス雲から誕生する。アミノ酸など、生命の材料となる複雑な有機分子が、星間分子雲の電波観測から見つかっている。この有機物を含んだ隕石が地球に降り注ぎ、最初の生命の材料となる。それが海で進化して、紀元前41億年頃には全ての生命の出発点となる原始細胞となり、さらに進化して単細胞となる。
■紀元前37億年頃
グリーンランドの生命活動の痕跡
地球が誕生して数億年後には生命が見られる。生命は海で誕生した。次の左の画像はグリーンランドのストロマトライトを含む岩石。その中から発見された37億年前の生命活動の痕跡とみられる構造(中央にある三角形)。
ストロマトライトは、バクテリアなどの微生物が堆積物を層状に積み重ねることで形成される。この層は長い年月を経て岩石となる。この岩石自体は生物ではないが、岩石を作った非常に単純な単細胞生物が存在したことを示している。研究を率いた豪ウロンゴング大学のアレン・ナットマン氏は、地球が45億年前に形成されてから比較的すぐに生命が誕生したことを、これらの化石は示していると語っている。
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参考文献
最古の生命活動の跡発見 37億年前、グリーンランド
地球最古の化石、グリーンランドで発見 37億年前の微生物
共通祖先
分子系統学は生物の遺伝子の塩基配列などの系統解析を行い、生物が進化してきた道筋を理解しようとするもの。1960年代の初期に分子進化学が始まる。人間も含めあらゆる生物や植物は、同じ共通祖先から突然変異を繰り返し進化してきた。
植物の進化も生物と同じで、海中の単細胞生物が藻類(そうるい)になり、多細胞化が起こって一部が陸上植物となる。
動物の起源は単細胞生物の立襟鞭毛虫(たてえりべんもうちゅう)が、最も近縁であるとされている。
陸上植物の起源に最も近縁なグループは、単細胞の接合藻類(せつごうそうるい)とされている。バナナの遺伝子の約60%は、ヒトと同じとなっている。
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参考文献
分子からみた生物進化 DNAが明かす生物の歴史 / 宮田 隆
植物の進化の道のりを見渡す
■紀元前29億年頃
シアノバクテリア
シアノバクテリアは光合成によって、太陽の光を食物や酸素に転換する。地球誕生から最初の20億年は、単細胞のバクテリアが全地球に君臨していたことを化石の証拠が物語っている。ストロマトライトと呼ばれるシアノバクテリアの群衆と、石灰の付着物からできた堆積物が世界中に散在する。
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参考文献
分子からみた生物進化 DNAが明かす生物の歴史 / 宮田 隆
■紀元前10億年頃
菌類の系統と動物の系統が分岐。動物の系統で最初にカイメン(海綿動物)とそれ以外の真正後生動物(しんせいこうせいどうぶつ)とが分岐する。カイメン(海綿動物)は熱帯の海を中心に世界中のあらゆる海に生息する。
真正後生動物(しんせいこうせいどうぶつ)のナメクジウオ。
次いで、真正後生動物(しんせいこうせいどうぶつ)の系統でクラゲ、イソギンチャク、ヒドラなどの二胚葉(はいよう)動物と、主要な動物のグループである三胚葉動物とが分岐する。
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参考文献
分子からみた生物進化 DNAが明かす生物の歴史 / 宮田 隆
■紀元前6億8000年頃
三胚葉(さんはいよう)動物は新口(しんこう)動物と旧口(きゅうこう)動物のグループに分かれる。新口動物は、ウニ、ナメクジウオ、ホヤを経て、脊椎(せきつい)動物へと進化する。旧口動物はタコ、ホタテ貝、昆虫、エビなどに進化する。
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参考文献
分子からみた生物進化 DNAが明かす生物の歴史 / 宮田 隆
■紀元前5億4200万年頃
カンブリア爆発
多細胞動物が爆発的に出現した。これより前の動物は小さく化石として残りにくく、また発見されにくい。カンブリア爆発の前に急速に大型化して化石として残るようになった。
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参考文献
分子からみた生物進化 DNAが明かす生物の歴史 / 宮田 隆
宮田隆の進化の話(図のみ)
■紀元前5億年頃
脊椎動物の系統では、メクラウナギやツメウナギの無顎類(むがくるい)と顎(あご)のある有顎類(ゆうがくるい)に分かれる。有顎類は魚類や四足(しそく)動物。
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参考文献
分子からみた生物進化 DNAが明かす生物の歴史 / 宮田 隆
■紀元前4億年頃
海の中の生命が陸地にも移動し始める。有顎類(ゆうがくるい)の系統では、魚から四足(しそく)動物が進化する。これは両生類・爬虫類・哺乳類・鳥類をさし、鳥類の前足は翼に変化。ニワトリの遺伝子は約60%がヒトに類似している。
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参考文献
分子からみた生物進化 DNAが明かす生物の歴史 / 宮田 隆
■紀元前2億8000万年頃
地球に哺乳類の先祖が出現した。子供に乳を与えるウシのように、授乳は哺乳類の特徴の一つであり、名前の由来。ウシとヒトの遺伝子は約80%が共通し、ネズミとヒトは85%、猫と人は90%が類似している。
■紀元前2億6000万年頃
パンゲア大陸
この頃、地球上の大陸は一つだった。
■紀元前2億3000万年頃
恐竜が繁栄する
魚から陸地で進化した四足(しそく)動物の一群が、恐竜へと進化する。
■紀元前7000万年頃
地球に、霊長類の先祖が誕生した。キツネザル類、オナガザル類、類人猿、ヒトなどによって構成され、約220種が現生する。
■紀元前6600万年頃
恐竜が絶滅する
恐竜の絶滅の原因として最も有力とされているのは巨大隕石の衝突。
■紀元前600万年頃
ヒトとチンパンジーが分岐する。チンパンジーの遺伝子は96%の部分がヒトと類似している。ヒト科にはヒト属(現代人)、チンパンジー属、ゴリラ属、オランウータン属がある。
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参考文献
分子からみた生物進化 DNAが明かす生物の歴史 / 宮田 隆
■紀元前280万年頃
エチオピアでヒト属の化石
東アフリカに位置するエチオピア・アファール州レディ・ゲラル調査地区で、ヒト属の化石が出土した。280万年前の下顎骨の破片。
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参考文献
Nature ダイジェスト
■紀元前176万年頃
この頃のヒト属の原人(ホモ・エレクトス)は、火山岩の周囲を打ち砕いて作った長さ20センチほどのアシュール型握り斧や、つるはし状の道具を石器として使用していた。彼らの一部はアフリカのケニア北部のトゥルカナ湖近くにいた。
■紀元前100万年頃
デニソワ人
ヒト属であるデニソワ人の系統が分岐する。
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参考文献
分子からみた生物進化 DNAが明かす生物の歴史 / 宮田 隆
■紀元前80万年頃
アフリカのエリトリアの80万年前のホモ・エレクトスの足跡。
■紀元前50万年頃
ヒト属の一種、ネアンデルタール人と現代人の系統が分かれる。
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参考文献
分子からみた生物進化 DNAが明かす生物の歴史 / 宮田 隆
■紀元前30万年頃
モロッコの現代的な顔の化石
モロッコのジェベル・イルード遺跡では、紀元前30万年頃のヒト族の初期人類(ホモ・サピエンス)の化石と、焚き火の跡と石器が発見されている。
この初期人類は現生人類と驚くほどよく似た点が多数あり、地下鉄ですれ違っても違和感がないような顔をしていたと述べられている。
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参考文献
Breaking News! 300,000-Year-Old Remains Place Oldest Homo Sapiens in Morocco
30万年前の人類化石は初期ホモ・サピエンスか
イスラエルの原人
考古学者はイスラエルの洞窟(Qesem cave)でも、紀元前30万年頃には原人によって火が繰り返し使用されているのを発見している。ここでは大量の焼いた骨、加熱された土壌の塊、灰の堆積物が見つかっている。
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参考文献
Ancient teeth reveal evidence of 400,000 year-old manmade pollution in Israel
■紀元前25万年頃
イタリアのネアンデルタール人
1930年にイタリアのラツィオで発見された頭蓋骨を調査した結果、紀元前25年頃、イタリアにはネアンデルタール人が存在したことがわかった。
■紀元前17万4500年頃
この頃の人工的に作られたネアンデルタール人の洞窟の中から、40cmほどの円筒形のスタラグマイトが発見された。この洞窟はフランスのブリニケルにあり、入り口から336mあった。
■紀元前7万年頃
アフリカの文化
2匹の蛇、虹蛇、創世神話などの共通点が見られることから、西アフリカのブードゥー教やフラニ族、マリ共和国のドゴン族、中央アフリカのクバ族の信仰も無を崇めているという結論だが、アフリカには他にも部族が数多く存在し、それぞれに創世神話や創造神の名が見られ、類似点や共通点も見いだせる。
●西アフリカのベナン
蛇神ダンバラーウェイドが夫で、その妻が虹蛇の女神アイダ・ウェッド。この2匹の蛇がブードゥー教のシンボルとして描かれている。
●西アフリカのナイジェリアなどに分布するフラニ族の神話で「無」は、巨大な一滴の乳。始まりのとき、巨体な一滴の乳以外には何もなかった。それから創造神ドゥーンダリがやってきて、石を作り出した。
●マリ共和国のドゴン族
創世神話。はじまりの世界には宇宙すらなく、天の創造神アンマのみが存在していた。アンマは言葉から宇宙を生み、太陽と月を作る。また最初の生命キゼ・ウジを創造し、キゼ・ウジは原初の子宮の「世界の卵」を産む。
また蛇を神とする神話もあり、共通シンボルが見られる。
ドゴン人が神レベの墓を開けた時、蛇を見出した。蛇が彼らの旅についてきたのでそれがレベであることを確信した。
●中央アフリカのクバ族
創世神話。世界の最初には、ただ水しかなかった。そこで巨大な創造神ブンバは、嘔吐(おうと)して太陽、月、星を吐き出した。これらによって光が生じて、世界に熱が生まれ、水が乾いていった。
●ケニア南部からタンザニア北部のマサイ族
マサイ族は、27万年前にアフリカで誕生した。
伝承では天空神エンカイは全てのものの創造者で、天と大地に住んでいた。マサイ族からはタンザニア北部にある火山オルドイニョ(山)・レンガイ(神)は神の山と言われる。
●ケニアのキクユ族
ケニア山の頂上に座する神ンガイを奉ずる一神教。神ンガイはマサイ族からはエンカイと呼ばれている。
神ンガイが頂上に座するという伝承があるケニア山。
●ナイジェリアのヨルバ人
創造神が世界を作った時、世界の始まりは海(海神オクロン)だけであり、そこで創造神は1羽の鳥にフラという薬草を持たせて送り出した。鳥は海神オクロンの上に土を置いて大地とした。そこに5本指の鶏を置くと、鶏は土を引っかいて地面を広げていき、イフェ島ができ上がり、そこから今のような大地ができ上がった。
別の伝承では、世界の最初、地上には最初の海オロクンしかなく、天空は至高神オロルンが支配していた。そこでオロルンは天より降りて海と交わり、オバハラとオドゥドゥアの兄弟を誕生させた。オドゥドゥアは大地を造る。オバハラは粘土で人間を作っていたが、途中で酒を飲んで寝てしまう。このオバハラが作った人間がイグボ族、オドゥドゥアが作った人間がヨルバ族となる。
オロルン全能で至高とされている。この天空の神は心を見きわめる者、「人間の内側と外側とを見る者」。誰もかつてこの「捜すことによって見つけ出すことができない王」を見たことはない。
また別の伝承ではオグン。オグンはもともとは大地が形づくられるより以前に存在していた茫漠(ぼうばく)たる荒れた沼地に、蜘蛛の糸によって降りてきた狩猟者であった。
●ガーナとコートジボワールのアカン人とアシャンティ人
創造神ニャメ(ニャンコポン)やオニャンコポンは全知全能の空の父。他にも宇宙を創造した神の名はいくつか見られる。オドマンコマ、オボアディ、アナセ・コクロク(偉大な設計者、または偉大なクモ)など。
●西アフリカのニジェール河下流のイボ族
イボ族の王の先祖は天から下って来たが、大地は水に覆われていた。しかたなく、先祖はアリ塚の上に降り立った。創造神が鍛冶屋に命じてふいごを使い、水を乾燥させたことで、初めて水が引いていった。
●南部アフリカのカラハリ砂漠に住むサン人
創造神、太陽神であるカグン(カアング、カッゲン)は月も創造した。ヘイツィ・エイビブはサン人の宗教における文化英雄で、死と再生の神でもあり、何度も死に生き返る。ツイ・ゴアブは天空神、雷の神。大嵐のとき、カアングは「雨と嵐と息の神」とされ自然現象の中における目に見えない霊とされている。カアングの娘は蛇と結婚し、それ以来、蛇はカアングの人々と呼ばれた。
これらの他にもアフリカでは多くの部族に、創造神や至高神の話が見られる。
●西アフリカ
ガーナのアカン人はこの神をブレキイリフヌアデ「すべてを知り、見る者」。
ナイジェリアのヨルバ人は、何ものも神の目から隠れることはできないと主張している。というのは神の目は「人間の内と外の両方を」見ることができるからである。
ナイジェリアのイボ人の至高神はチュク。チュクは「最初の偉大な原因」であり、チネケ「創造者」でもある。イボ人も西アフリカの隣人たちのように、祖先とその他の霊を鎮めることを求めている。
ヌペ人の文化創設の英雄はツォエデ。
リベリアでは創造神スノ・ニソア。
ベナンにあったダホメ王国では創造神マウ・リサ。
カメルーンのバムム人の創造神はンジニュイ。「どこにでもいる者」とされ、人間を健康で強いものとして創造した。
アカン人の至高神はニャメ。「すべてを知り、すべてを見る者」「創造の建設者」などと呼ばれている。
ドゴン人の至高神はアンマで、宇宙卵を創造したものと思われている。
●東アフリカ
ウガンダのガンダ人によれば、神の「偉大な目」はあらゆる場所、あらゆる時に絶え間ない眼差しを注いでいる。その目はけっして瞬かない。
ケニアのアカンバ人ではアサ(父)。
ケニアのアバルイヤ人では至高神ウェレ。
マサイ人では天空神エンカイ。全てのものの創造者。
マダガスカルの至高神ザナハリィは大地をつくった。
ナイル河の最上流地域のシルック人の神はジュオク。多くの側面を持った神ジュオクはどこにでも存在している。
ウガンダとザイールのアルル人の神はジョク。アルル人は世界が霊ドゥジョクによって満ちていると信じられており、彼らの先祖が蛇や大きな岩に姿を変えて存在していると考えている。
●南部アフリカ
ズールー人では賢い者ウキリ。
別のズールー人の創造神はウンクルンクル。ズールー人は彼をウジヴェレレ「自分自身である者」「存在となった彼は人間に存在を与えた」と記述している。
コイコイ人の神はウティホ。天空に住む慈悲深い神で、穀物のために雨を降らせ、雷の声で語る。
ザンビアとマラウィのトンガ人の神ティロは、創造者、永続する者、全能の者、死なない者などとされている。また自然の渦巻きのなかでの恐ろしい存在である。
ジンバブエのマコニ人では、天空の神マオリ。マオリは原初の人間であり月であるムウェツィを創造した。その後、乙女であり明けの明星であるマサッシを創造した。ムウェツィは別に創造された女性モロンゴとの間に獅子、豹、蛇、サソリを生んだが、モロンゴは夫より蛇を好んだ。
アンゴラのバコンゴ人の神ンザンビは、全能ですべてを知っている。「彼は誰にもつくられず、誰も彼を超えているものはない」「正しく、慈悲深い」、宇宙の支配者で維持者、善の源泉である。また「人間は神の人間である」と表現されている。
●中央アフリカ
ザイールのルバ人では創造神カルンバ。
ピグミー族では、至高の霊で形がなく永遠なコンヴム。
レレ人の創造神はンジャムビ。それはすべての善いものの源泉。
ルワンダ人の宇宙の秩序の創始者で維持者はイマナ。イマナは「ただひとりすべてのことをも知っている」。イマナはハテゲキマナ「唯一の支配者」、ハシャキマナ「計画する者」、ビギリマナ「万物の所有者」、イマナはすべての贈り物の遠く離れた源泉などとされている。
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参考文献
海の神話 / 朱鷺田祐介
世界神話辞典 / アーサー・コッテル
粘土と人間創造
ナイジェリアのヨルバ人の創世神話では、オバハラが粘土で作った人間がイグボ族となる伝承があった。ヨルバ人の別の伝承では、人間はオリサンラ神によって土で形づくられたが、人間に命を与えることができたのは至高神であるオロデュマレだけだった、とある。他の場所でも粘土と人間創造は見られる。
アフリカのベナンにあったダホメ王国では、創造神マウ・リサが水と泥から人間を創造したとされる。
アフリカのマダガスカルでは、神ラトヴァアンタニィという「自己創造した者」が、自分のつくった人間と動物の粘土の像を日なたで乾かしていたが、生命を与えることはできなかった。マダガスカルの異説では、大地のザナハリィは男と女を含むさまざまな生き物を粘土から形成した。
エジプト神話のクヌムは、粘土をこねて人間を創造した神とされる。クヌムにも共通のシンボルの太陽、蛇の紀章ウラエウス、羊の顔と角、アンク十字、ウアス杖などが見られる。
アッカドの叙事詩「アトラ・ハシス」では、人間を造る時に粘土に殺害された神の血が粘土に混ぜられたとある。
ユダヤ教では最初の人アダムはエロヒムによってその息吹と土から創造されたとされ、キリスト教の新約聖書では「最初の人は土ででき、」とされ、イスラム教ではアッラーが土からアーダムを創ったとされる。
モンゴルの創成神話でも、天から地球を作ったウダンと呼ばれる神ラマは、初めての男性と女性を粘土から作った。
シベリアの最高神ブガは、鉄と火と水と土で2人の人間をつくった。土からは肉と骨を、鉄からは心臓を、水からは血を、火からは体温をこしらえた。
マヤ神話のポポル・ヴフでも創造主たちが泥土で人間を造ったとあり、ところがそれはすぐ崩れてしまった。
南アメリカ、コロンビアのチブチャ人の神話では、光が創造される前の暗闇の頃、そこにはイラカと彼の甥であるラミキリの二人しかいなかった。それにうんざりした二人の酋長(しゅうちょう)は黄色い粘土で小さな像をつくり、それが男たちになった。
南アメリカのウル族はチチカカ湖が初めて太陽によって温められたとき、その軟泥(なんでい)から生まれた。
南アメリカのパラグワイのレングワ族は世界の創造を、一匹の巨大な甲虫の業であったとする。この甲虫はまた、さまざまの精霊を創造し、自らが放り投げた土の粒から最初の男と女(両者は元々一つにくっついていた)をつくった。
アフリカ神話と旧約聖書の天地創造
ユダヤ教・キリスト教の聖典である旧約聖書の中の創世記には、神が七日間で行った天地創造が記されている。ここでは土や泥などから最初の男女を作り、数日間で天地を創造するという話がアフリカにも見られ、類似している。
1日目 神は天と地をつくられた。暗闇がある中、神は光をつくり、昼と夜ができられた。
2日目 神は空(天)をつくられた。
3日目 神は大地を作り、海が生まれ、地に植物をはえさせられた。
4日目 神は太陽と月と星をつくられた。
5日目 神は魚と鳥をつくられた。
6日目 神は獣と家畜をつくり、神に似せた人をつくられた。
7日目 神はお休みになった。
その後、神は最初の男性(アダム)を土から作り、次に女性(イブ、エバ)を造る。
アフリカのベナンにあったダホメ王国では、月のマウと、彼女の双子の兄弟で太陽であるリサは両性具有の創造神マウ・リサとして考えられていた。ここでの神々の崇拝は、イスラムにもキリスト教にも影響をほとんど受けていない。
マウ・リサは植物、動物、人間をつくる前に宇宙を秩序づけた。彼らはこの祭祀を4日間で行う。
その最初の日は、マウ・リサが宇宙的秩序を制定したときであり、彼女=彼が水と泥から人間を創造したときであった。
2日目に、大地が人間の居住できるようなところにされた。
3日目には、人間は視力と話す能力と自分の周りの世界について理解する力を受け取った。
創造の最後の4日目に、マウ・リサは人間に技術を贈った。
次に西アフリカのナイジェリアのヨルバ族の天地創造神話。
最初、世界はじめじめとした、海でも陸でもない沼地のようなカオスであった。その上の空には至高神、オロデュマレ神が住んでおり、偉大なるオリサンラ神に世界を創るよう命令した。 固い大地を創る時がきて、オリサンラにはこの課題を成し遂げるために、魔法の土で満たされたカタツムリの殻とハト一羽、五本指のめんどり一羽が与えられた。オリサンラはこのカオスへ降りたってカオスを整え始めた。彼は魔法の土を小さな地面の上に投げた。するとハトとめんどりがその魔法の土をひっかきはじめ、陸と海が完全に分かれるまで、それを続けた。オリサンラは地を創るのに四日間を要した。五日目にオリサンラは仕事を休んだ。
次にケニアのアバルイヤ人の天地創造神話。
至高神ウェレは天を創造し、そして丸い小屋の屋根が柱によって支えられているように、柱によって天の周りのすべてを支えた。そこでウェレは2人の補助者を創造した。そしてウェレと補助者は一緒になって月と太陽を天空に置いた。しかしこの光輝く両者は互いに戦った。最初は月が太陽を天空から叩き出し。次に太陽がその兄を投げ落とし、「彼を泥のなかに投げ込んだ。それから太陽は、月が燦然と輝く存在でなくなるように泥を一面にはねかけた」。ウェレは敵対する兄弟を分け、太陽は昼輝き、夜は青白い月に属すると定めなければならなかった。
次の創造物は雲、稲妻の頭、星々、雨、「それによって神が雨を止める」虹、空気、そして雹(ひょう)を降らせる「冷たい空気」であった。これは2日間の仕事であった。
続いて大地が創造され、ムワンプと名づけられた最初の男と、セラと名づけられた最初の女もともにつくられた。次にウェレは大地を動物で満たし、そして宇宙の創造は「6日間」で完成した。
このケニアの神話の、はじめは太陽と月はともに存在し、やがて月に泥をかけて明るさを抑えた類似の話は、メキシコのアステカ神話にも見られる。
神であるナナワツィンとテクシステカトルがいったん焼け死ぬ。やがて東の方角からナナワツィンは太陽神トナティウとなって蘇る。その直後、テクシステカトルも東の空に昇り、トナティウと同じように輝きはじめた。二人の輝き方があまり似ているので、神々もこれでは世界が明るくなりすぎるのではないかと思った。 そこで一柱の神が走りでて、テクシステカトルの顔にウサギを一匹投げつけた。すると傷ついた月の輝きは太陽よりも弱まり、満月にはウサギの姿が見えるようになった。
このように旧約聖書の7日間の天地創造の物語もアフリカの神話と類似しており、これも共通シンボルの一つと言える。つまり出どころが同じで、各地で独自の物語として発展した。
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参考文献
世界神話辞典 / アーサー・コッテル
シリーズ 世界の宗教 WORLD RELIGIONS アフリカの宗教 / A・M・ルギラ 嶋田義仁訳
旧約聖書のアダムとイブに類似の神話
旧約聖書にはアダムとイブの物語があるが、これもアフリカなどで類似した話が見られる。次は旧約聖書の創世記より。
一つの川がエデンの園から流れ出て、園を潤していた。神はエデンの園に男性(アダム)を置いて言った。「園のどの木からでも実を取って食べてよい。しかし善悪を知る木からは取って食べてはならない。その実を取って食べると、きっと死ぬだろう。」
その後、神は女性(イブ)も造って置いた。その女性は蛇から「禁じられた木の実を食べても死ぬことはないでしょう」と言われる。それを信じた女性は夫(アダム)とともに木の実を食べる。すると、2人は自分たちが裸であることを知り、いちじくの葉を腰に巻いて隠した。約束を破った2人を、神はエデンの園から追放した。その後、2人はカインとアベルを産み、そうして子孫が増えていった。
ポリネシアのハワイ神話では、このアダムとイブの物語に類似した神話が見られる。
カネ神によってつくられた最初の庭には、果物があり動物がいた。神聖な木を除いた果物と動物はすべて、クム・ホアム(始まりの大地)と妻が利用できるものだった。この神聖な木の果実と樹皮だけは禁じられていたのだが、彼らは法を破り、そして追放された。大きな白いアホウドリが2人を追い払った。
ハワイでは1700年代後半から、アメリカやイギリスの宣教師がキリスト教を広め始めた。ハワイ独自の宗教は1800年代に禁止される。それまでの創世神話には、各地と同様の共通パターンが見られた。さらに西アフリカのアシャンティ人にも、類似の物語が見られる。
昔、ボソンムル川にその居住地をこしらえたニシキヘビがやったように、男と女が天空から舞い降りて来た。この夫婦には子供がいなかった。ある時、ニシキヘビが彼らに子供を持っているかどうかをたずねた。そして彼らが持っていないと答えると、蛇が彼女が妊娠するようにしてあげよう、と言った。そのニシキヘビは彼らの腹に水を吹きかけ、何かの言葉を呟(つぶや)き、それから家に帰って一緒に横たわるように彼らに言った。このようにして最初の子供が生まれ、彼らはボソンムルを彼らのントロ(霊)とした。そしてすべての男はこのントロを自分の子供に渡していった。
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出アフリカ
肌の色の変化は、突然変異や住んでいる地域の紫外線の量などの影響を受ける。アフリカにいた人間は紀元前12万年頃より移動し始め、紀元前10万年頃には中国に到達していた。本格的な移動は紀元前7万年頃の出アフリカから始まり、イラン付近を経て3つの方向に分かれ、黄色人種、白人、オーストラリア系などが生まれ、出アフリカしなかった人間は黒人となる。
こういったことはY染色体ハプログループの研究で明らかになっている。Y染色体は父から息子へと受け継がれるので、Y染色体を解析すると父方の祖先を遡ることができる。それをグループに分けたものをハプログループという。アルファベットのAから始まり、Y染色体ハプログループAは紀元前27万年頃にアフリカで誕生し、マサイ族などに多い。アルファベットが進むにつれ現代に近づき、Qは紀元前17000〜前22000年頃にイラン付近で発生したとされる。
下の図のアフリカからイランへ渡り、そこから各地へ広がる。
・アジア、南北アメリカルート、黄色人種(黄色の線)
・中東、ヨーロッパルート、白人種(ピンク色の線)
・オーストラリアルート、オーストラロイド(青色の線)
・移動なし、黒人種(アフリカにとどまった茶色の線)
ホモ・エレクトスから進化したホモ・サピエンス(現代人)は、全て紀元前20万~前10万年頃にアフリカで生まれ、紀元前7万年頃にアフリカを出て全世界に広がった。同じくホモ・エレクトスから進化したデニソワ人とネアンデルタール人は紀元前2万年前後には絶滅していた。その時期までネアンデルタール人とデニソワ人とホモ・サピエンス(人類)は交雑(こうざつ)しており、その遺伝子は現代人に混入している。
この頃の原始的な信仰
この紀元前7万年頃の出アフリカの時点でホモ・サピエンス(現代人)は、原始的な信仰をすでに持っていたのではないかと推測される。それは下記のようなもの。
・2匹の蛇、虹蛇(ベナンなど)
・宇宙の創造神話(マサイ族など)
・宇宙卵(ドゴン族など)
・洪水神話(ムブティ族など)
・粘土から人間を作り出す物語(ムブティ族など)
・天地創造神話(ケニアのアバルイヤ人など)
・その他
こういった信仰を伴って世界中に散らばっていく中で、それが各地で独自に発展し、キリスト教、イスラム教、ヒンドゥー教、仏教などになっていったというのが、この文書の仮説の一つ。なぜならこれより先にまとめている各地のシンボルなどが、場所は違っても共通しているからである。
人体の黄金比
人体にも黄金比は見られる。人間の手には指先から順に、末節骨(まつせつこつ)、中節骨(ちゅうせつこつ)、基節骨(きせつこつ)、中手骨(ちゅうしゅこつ)、手首の手根骨(しゅこんこつ)がある。末節骨(まつせつこつ)から手首まで骨が順番に少しずつ長くなっているが、これはおおよそ黄金比の比率で長くなっている。例えば末節骨(まつせつこつ)が1とすれば、隣の中節骨(ちゅうせつこつ)は1.618倍と黄金比の比率の長さになる。同じく中節骨(ちゅうせつこつ)を1とすれば、次の基節骨(きせつこつ)は1.618の比率で長くなる。
実際に計った著者の右手の指の長さの例。手の甲側で、指を曲げた時に盛り上がっている関節間の骨の長さを計った。職業や個人差があるのでピッタリとはいかないが、指先から隣り合う骨の長さはおおよそ黄金比の比率で長くなっている。手のひら側で計るとこの比率にはならない。
薬指
末節骨2.4cm(この1.618倍は3.88cm)
中節骨3.5cm(この1.618倍は5.66cm)
基節骨5.3cm(この1.618倍は8.57cm)
中手骨10cm
中指
末節骨2.5cm(この1.618倍は3.88cm)
中節骨3.8cm(この1.618倍は6.14cm)
基節骨5.4cm(この1.618倍は8.73cm)
中手骨10.5cm
人差し指
末節骨2.1cm(この1.618倍は3.39cm)
中節骨3.1cm(この1.618倍は5.01cm)
基節骨5cm(この1.618倍は8.09cm)
中手骨10.5cm
さらに小指と親指は他の3本と比べて短いが、実際に計った長さは次の通り。この2本には、黄金比の比率に近しい数字はあるという程度だった。
小指
末節骨2cm(この1.618倍は3.2cm)
中節骨2.5cm(この1.618倍は4.04cm)
基節骨4cm(この1.618倍は6.47cm)
中手骨9cm
親指
末節骨3.2cm(この1.618倍は5.17cm)
基節骨4.3cm(この1.618倍は6.95cm)
中手骨9cm
そして小指の先から手首までは16cm、親指から手首までは15cmほどとなっている。これにそれぞれ黄金比の1.618をかけると、小指側が25.88cm、親指側が24.27cmとなる。この数字に近いのが、手首から肘(ひじ)までの長さ26.5cmとなる。そして肘から肩までを計ると約34cmだった。これは薬指、中指、人指しの先から手首までの長さそれぞれ約20cmに1.618をかけると、32.36cmという近い数値となる。
このように手の指先から肩にかけて、関節と関節の間の長さはそれぞれ黄金比の比率と関係している。このように人間の体にも、宇宙の共通デザインが組み込まれている。
■紀元前5万年頃
オーストラリアのアボリジニ
この頃、アボリジニの祖先が東南アジアを通ってオーストラリアにやってくる。
アボリジニのヨルング族には神話を踊りで表現する儀式があり、男性のダンサーが虹蛇を象徴する2本の特別な棒を持っていることから、2匹の蛇=無を神として崇めているという結論。
オーストラリアで有名なエアーズロック近辺に、アナング族と呼ばれる先住民がいる。彼らはエアーズロックをウルルと呼んでいる。
このエアーズロックには虹色の蛇の物語がある。
「エアーズロック(ウルル)にはクニヤと呼ばれるメスのニシキヘビがいた。クニヤは自分の卵が孵化(ふか)しそうになると、エアーズロック(ウルル)の西側にある洞窟(クニヤ・ビティ)に戻り、新しい子供の誕生を待っていた。ある日、クニヤの甥(おい)であるクカクカが、毒ヘビの祖先でオスのリルの放った槍(やり)によって命を落としてしまった。実際にはクカクカが掟を破ったことへの戒めだったが、それを知らないクニヤは激怒し、リルとの激しい戦いが始まった。激闘の末、クニヤが棒を使って岩の上にいたリルの頭を叩き割って殺したが、リルに戦いで放たれた毒に侵され、クカクカをムティジュルの泉へ運ぶと自分も息絶え、ワナンビと呼ばれる虹色のヘビに姿を変えた。そしてワナンビがムティジュルの泉に住み、水を枯らさずにいると信じられている。」
ここでも虹蛇が出てくるので、無を崇めた場所ということ。エアーズロック(ウルル)近隣のカタ・ジュタにも巨石があり、この山の頂上にもワナンビが住んでいて、乾期にのみ下山するという神話がある。
またデビルズ・マーブルズの周辺一帯は、アボリジニの土地の中に位置する。
その地域のアボリジニは、ここを聖地カール・カール(Karlu Karlu)と呼ぶ。アボリジニの部族の1つカイテチェは、デビルズ・マーブルズにある奇石を虹色の大蛇の卵と信じている。つまり無の卵であり、宇宙卵である。創成神話の中で、原初の「無」を日本書紀では鶏の卵のような混沌という表現があった。またフィンランド神話カレワラには続きがあり、卵から天空と大地ができたとある。つまり丸い巨石や絶妙なバランスの巨石は、原初の無を卵として表したもの。デビルズ・マーブルズには他にも絶妙なバランスで立つ石球も存在する。
アボリジニのブーメランやディジュリドゥ
オーストラリアの東にあるカーナーヴォン国立公園の壁画に、アボリジニのブーメランが見られる。紀元前1万7500年頃のものとされる。ブーメランもアボリジニの神話に見られ、共通のシンボルという結論。
アボリジニの楽器ディジュリドゥの呼び方は地域によって違いがある。オーストラリア北部のアーネムランド内の南西ではマゴ、北東ではイダキ、クィーンズランド州北部ではイギイギなどと呼ぶ。イダキは楽器自体が神であり、楽器の中にも神が宿っているとされている。木や万物に神が宿るという思想はアニミズムと言い、南北アメリカや縄文人など先住民にも見られる思想。また樹木崇拝ともつながる。
アボリジニと虹蛇
アボリジニの木彫容器クーラモンは楕円形の皿で、果実や水などを運ぶのに使われる。一番右の画像はクーラモンのデザインの移り変わりをまとめたもので、下へ行くほど新しい時代になる。最初のクーラモンに1匹の蛇が見られる。
アボリジニには3つの蛇神(じゃしん)であるウングッド、エインガナ、ユルルングルの伝承があり、虹蛇とされる。話の内容はそれぞれ異なる。
「ウングッド」
根元神ウングッド、もしくはウングルは、海しかない世界で海底の泥が集まって生まれ、己しかいない寂しさを失くすために命を生みだそうと考える。 そこでまずブーメランで海を撹拌(かくはん)して泡立て、その泡で巨大な大地を作り上げ、そこに無数の卵を産んで生命を増やしていった。これがアボリジニ伝承における創世神話。またブーメランが無のシンボルでもある理由。
これと類似した話は、日本書紀と古事記に見られる。イザナギ、イザナミは天浮橋(あめのうきはし)に立ち、天沼矛(あめのぬぼこ)で渾沌(こんとん)とした大地をかき混ぜる。このとき、矛(ほこ)から滴り落ちたものが積もって最初の島のオノゴロ島となった。その後二人は結婚し、大八島(おおやしま)と神々を生んだ。イザナギ、イザナミも無のシンボル。
モンゴルの創成神話でも、類似したかき混ぜる話が見られる。はじめ水だけがあり、天から仏教の神ラマが鉄の棒を持ってやってきて、かき混ぜはじめた。すると風と火が起こり、その水の中心部が厚くなって地球が誕生した。
「エインガナ」
この世の最初は無限の砂漠であり、エインガナはこの風景を見飽きて世界を生命であふれさせようと思い付く。そこでエインガナは水中に潜ってあらゆるものを創造し、最後に長い陣痛(じんつう)の末に人間を産み落としたという。エインガナは全ての生命に関わる紐(ひも)を所有しており、エインガナが紐を手放した種は絶滅する運命となる。
「ユルルングル」
オーストラリア南部の伝承の虹蛇ユルルングル。「父なる蛇」と呼ばれる天候神で、その声は雷鳴であり、彼の住む泉は虹色に輝くという。長らく泉の底で眠りについていたが、自身の子孫に当たる人間の姉妹が泉に経血(けいけつ)を落とし、その臭いで目覚め、起きた勢いで洪水を引き起こした。そして姉妹とその子供たちを、勢い余って呑み込んでしまう。その後、蛇による集会が開かれ、ユルルングルは自分の子孫を呑み込んでしまったことを告白し、彼らを吐き出すことを約束する。そうしてユルルングルは姉妹と彼女の子供たちを吐き出すと、ユルルングルが所持する魔法の楽器ディジュリドゥが独りでに鳴り響き、アリが姉妹と子供たちに噛みついて蘇生させた。この伝承からアボリジニの一部の部族では、成人の儀式として嘔吐を経験することになっている。
虹蛇、2匹の蛇、洪水、雨、雷雲
アフリカ、アジア、オセアニア、北中米、南米では、虹蛇、2匹の蛇、洪水、雨、雷雲という線でシンボルがつながる。
「フィジー伝承のデンゲイ」
オセアニアのフィジー諸島の虹蛇は創造神デンゲイと言い、怒って洪水を起こした神で、洪水を生き残った8人をボンタンの実に乗せて助けた神でもある。
またデンゲイを最高神とする神々をカロウ・ヴと呼ぶ。フィジーにはブレ・カロウという高い屋根を持つ建築物がある。ブレは家、カロウは神の意で神社を意味する。ここで神は天から降りてきて願いをきいてくれる。
「西アフリカ伝承のマウ」
西アフリカでは創造神である女神マウ(マウウ)が最初に創造した存在は蛇で、世界創造を手伝った後に海底でとぐろを巻いている。虹(にじ)はこの蛇が天にアーチをかけたものであり、雨を降らせる役割も持つ。
「ハイチ伝承」
カリブ海に浮かぶハイチの伝承の虹蛇は、アフリカ系住民によって伝わり変化したものだといわれる。
「マヤ文明のイシュ・チェル」
メキシコのマヤ文明の虹の婦人と呼ばれる女神イシュ・チェルは、マヤ神話において洪水・虹・出産等を司る女神。頭に蛇を置き交差した骨が刺繍(ししゅう)されたスカートをはいた姿で描かれている。怒らせると大雨を降らせ洪水を起こす。頭に蛇はアイオーンでも見られた。
アイオーン。
「ネイティブアメリカンの伝承」
北アメリカのネイティブ・アメリカン(インディアン)のショショーニ族の伝承では、虹は大きな蛇が天空に背をこすり付けて生じさせ、雨や雪を降らせるという。
「ブラジルのマト・グロッソ地方のトゥパリ族」
トゥパリ族の間では、人間が死ぬと、瞳孔(どうこう)はその人間から離れ、パビッドになると信じられている。パビッドは生身の人間のように地面を歩くことはしない。死者の王国に通ずる彼の道は、 まず、二匹の大きなワニの背を乗り越え、つがいの大蛇のところまで達する。つがいの二匹の大蛇は、しばしば、天空に向かって高々と背を伸ばす。雨降りのとき、その姿は誰の目にも見える。なぜなら、それが虹だからである。(1948年までトゥパリ族は白人との接触がほとんどなかった未開の部族)
「中国伝承の虹霓(こうげい)、虹蜺(こうげい)」
中国の蛇神伝承の虹霓(こうげい)、虹蜺(こうげい)。漢字で「虹」が虫偏(むしへん)なのは、古く虹を竜の一種と考え、雄を虹、雌を蜺としたことから。虹はこの竜の体であるといわれ、雄雌(おすめす)を表す漢字で虹霓/虹蜺(どちらもコウゲイ)と表記する。つまり虹は2匹の蛇。
「日本の神社の注連縄(しめなわ)」
神社の注連縄は、神聖な場所を区切るために張られる結界の事で、2匹の蛇が絡まった交尾の姿になっている。注連縄は、雷雲も表している。ジグザグの白い紙の紙垂(しで)は雷雲から起こる稲妻、紙垂の間のワラは雷雲からの雨を表す。
洪水神話
オーストラリアの虹蛇ユルルングルやフィジーの虹蛇デンゲイには洪水神話が見られた。洪水前に船などに人間や動植物を乗せて助け、その後栄える類似の神話も各大陸で見られる。
「アフリカのムブティ族」
ある日、カメレオンは樹の中を流れる水の音に気づいた。いったいどうしたことだろうといぶかしんだカメレオンは、斧でその樹の幹を断ち割ってみた。するとそこから大量の水が噴出し、大洪水になった。やがて、この水の中からムブティ族のように、肌の明るい一組みの男女が現れた。彼らこそ人類の祖先である。
「シュメール神話」
洪水で人間を滅ぼす直前にエンキ神はジウスドゥラ(ノア)に船を作らせ、その中に動物と人類の種(=子孫)を入れて助けさせた。
「中国」
人類に対し怒った玉皇(ぎょくこう)が大洪水を起こし、人類を滅亡させた。ただ伏羲(ふっき)と女媧(じょか)は彼らが以前に親切にもてなした神仙に教えられ、竹カゴに入って助かった。
別の表現では、雷公によって大洪水が起こされ、伏羲と女媧の兄妹は巨大なヒョウタンの中に避難して二人だけが生き延び、それが人類の始祖となった。伏羲と女媧は2匹の蛇の姿で、共通シンボルだった。
「アメリカのホピ族」
ソツクナングはクモ女に次のように命じた。「中空になっている背の高い植物を切って、人々をその中に入れなさい」クモ女は葦(あし)を切り、中に人々、少量の水、食料、フルスキ(トウモロコシの粉)を入れた。そしてソツクナングが現れて大洪水を起こした。そして葦の中の人々は助かった。
「インカ帝国」
神ビラコチャは文明の創造者で、大洪水によりチチカカ湖周辺の人々を滅ぼした。その際マンコ・カパックとママ・オクリョの2人を、世界に文明を広げるため助け残した。
「南アメリカのコロンビア、チブチャ人」
チブチャクムあるいはチックチェクムは、労働者や商人たちを守護する神であった。その守護神がボゴタ高原の人々の振る舞いに腹を立て、国中を覆い尽くす大洪水を送った。災難に見舞われた人々は神々の長であったボチカに哀れみを乞うた。ボチカはソアチャの町の近くで虹の中に姿を現し、太陽の光を送って水を干上がらせた。
「南アメリカのエクアドル、カニャリ族」
大洪水が発生したとき、一組の兄弟がワカイニャンという大変に高い山の頂に逃れた。水面が上昇するにつれ山も高さを増し、水は兄弟を捕らえることができなかった。大洪水が終わったとき、兄弟が山の頂で採取した食糧は尽きていた。その兄弟を二羽のインコが世話をした。やがて弟はインコとの間に六人の息子と娘が生まれた。
「南アメリカのチリ中南部からアルゼンチン南部に住む先住民アラウカノ族」
幾十世紀も前、大洪水があった。人々は上昇する水位から逃れて、テンテンという高い山頂に避難した。動物たちはカイカイという別の山頂に集められた。洪水はゲクフュという悪の勢力者によって起こされた。だが、彼の計画を無に帰さしめるために、洪水が水位を増すと、最高神ギネチェンも負けず劣らず山々を高く持ち上げた。大洪水から生き残った人々がアラウカノ族の先祖となった。
別の神話では、大洪水はテンテンという蛇とカイカイという蛇の間の争いが元で起こった。テンテンが洪水の水かさを増すと、カイカイも山々を益々高く持ち上げ、人間と動物たちが溺れ死ぬことから救ってやった。二つの山のどちらであっても、山に避難した人間は、その後はすべて、動物か魚、鳥、等々に変じられた。
「南アメリカのペルー中部高地のワロチリ地方の神話」
(中略)創造神の一人パリアカカの得意技は風と雨と洪水で、ワガイウサという村を貧乏な男に姿を変えて通過しようとしたが、チチャという飲み物を持ってきてくれた若い女のほかは、村人たちの全員が彼を快く受け入れなかった。怒ったパリアカカは、まず若い女と彼女の家族に警告をし、彼らが災厄から逃れることができるようにしてから、村を雨と洪水とをもって破壊した。
「ペルーのワロチリ地方の別の神話」
一人のインディオが、うまそうな牧草の生えた場所に、ラマ(アメリカラクダ)をつないだ。悲しそうなラマは主人に言った。これから五日後に、海の水が地表のすべてを覆いつくし、あらゆるものを呑みこむ、と。インディオは、ラマに導かれ、五日分の食糧を携え、ビルカコトという高い山の頂上に登った。頂上についてみると、そこにはあまりに多くの動物や鳥が集まっており、全員を収容するだけの余地は、ほとんどありそうに思えなかった。海の水位が上昇しはじめ、 海水が谷という谷を充たし、ビルカコト以外のあらゆる丘を覆いはじめた。五日後、 水が引きはじめた。そして、ただ一人生き残ったこの男こそ、現在の世界のすべての人々の先祖なのである。
「ペルー、アンカスマルカの地の神話」
大洪水の発生の一月前、インディオのラマ(アメリカラクダ)は非常に悲しそうだった。ラマ達は星の並びを気にしていた。星の並びはこの世は間もなく水によって滅ぼされる、と告げていた。羊飼いはこれを聞くと、六人の息子と娘たちを集めて相談をした。その結果、できるかぎり多くの食糧を携え、できるかぎり多くの 家畜を引き連れて、アンカスマルカと呼ばれる高い山の頂に逃れるということで、全員が合意した。そして水位がいくら上昇をつづけ、大地を水の中に呑みつづけても、 山もまた高く高くせり上がるので、洪水はついに山を水中に埋没させることができなかった。やがて洪水が引いていくと、山もまた低くなった。そして、山頂に逃れた羊飼いの六人の子供たちによって、クヨス地方はふたたび人々で賑わいはじめた。
このように各地の神である虹蛇、ビラコチャ、マンコ・カパック、ママ・オクリョ、エンリル、エンキ、ジウスドラ(ノア)、ソツクナング、伏羲と女媧、雷公も、すべて無を表したシンボルということが見えてくる。これら以外にも類似の洪水神話は、各地に数多く存在する。
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参考文献
ペルー・インカの神話
オセアニア
オセアニアはオーストラリア、ニュージーランド、ポリネシア、メラネシア、ミクロネシア全体を指す。紀元前5万年頃から、東南アジア経由でオーストラリアやニューギニアに人々が住み始めた。初めてこの地域に白人が訪れたのは1521年。
ニュージーランドのカイマナワ森林公園の木の下には、類似の精巧にカットされた巨石の石積みが存在する。
オセアニアのキリバス共和国にはカウンラバタというキリバス相撲があり、オーストラリアのアボリジニーにはコレーダという相撲の一種がある。相撲とレスリングも世界中の民族で見られた。
■紀元前4万年頃
デニソワ人の洞窟
ロシア、中国、モンゴルの国境に近い地域のロシア・アルタイ地方のデニソワ洞窟は、約4万1千年前にデニソワ人が住んでいたとされる。
北海道のアイヌ民族
1000年頃から北海道で広がるアイヌ人では、Y染色体ハプログループD1a2aが大半を占め、紀元前4万年頃発生した。
■紀元前3万2000年頃
ドイツのホーレ・フェルス洞窟
ドイツのホーレ・フェルス洞窟から、紀元前3万2000年頃のマンモスの牙で作った女神像が発掘されている。胸が出て、その下に手を置くポーズや下半身が太いことは、世界中の女神像と共通。またライオン女性の像も発見されている。
■紀元前2万9000年頃
足の切断手術と人体の知識
この時代、インドネシアのカリマンタン島では足の切断手術が成功していた事例が、発見された人骨よりわかった。患部がきれいに切断され、骨がこぶ状に再生していたことから、足が意図的に切断されていた。手術後は、定期的な傷口の洗浄、包帯の巻き直し、消毒といった集中的な看護が行われていたと、豪グリフィス大学などの研究チームは推測している。また当時の人々には手足の構造、筋系・脈管系に関する詳細な知識があったともしている。この骨の再生具合から切断後6~9年生存して、深刻な感染症にもかからず、20歳前後で死亡した人物のものと推定された。
■紀元前2万3000年頃
オーストリアの女神像
オーストリアのヴィレンドルフからも女神像が発見されており、紀元前2万3000年頃のものと推定されている。胸が出ている、胸を触っている、下半身が太い、おへそが描かれている、などが共通点。
フランスの女神像
紀元前2万3000年頃のフランスより出土の、下半身が太いローセルのヴィーナス。
■紀元前2万1000年頃
ロシアのブリャンスク州の女神像
ロシアのブリャンスク州からも女神像が発見されている。これも胸を触っている、下半身が太いなどが共通点。
ロシアのマルタの女神像
同時期、ロシアのマルタからも女神像が発見されており、共通の特徴が見られる。
ヨーロッパの洞窟壁画
女神像以外にもこの時代のヨーロッパの洞窟で、壁に描かれたシンボルが見つかっている。そこには渦巻き模様、ジグザグ模様、蛇型の線、三日月型の半円、はしごが共通シンボルとして見られ、手のひらを見せるシンボルも後に見られる。
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参考文献
The First Signs: Unlocking the Mysteries of the World’s Oldest Symbols / Genevieve von Petzinger
■紀元前1万3000年頃
エスキモー系諸民族イヌイット
エスキモー族はシベリアからグリーンランドまで広がりを持っていた。イヌイットやアメリカ先住民のY染色体ハプログループのほとんどはQ系統が占め、紀元前2万2000年頃イラン付近で発生したとされる。
アラスカから出土した土偶は、三角形の下着が描かれていたり、手の置き方などが各地の女神像の共通点を持つ。またイヌイットが使用した遮光器は、日本の遮光器土偶の目と同じデザイン。遮光器土偶にも黄金比の渦模様が見られる。
アメリカ先住民ホピ族
紀元前1万3000年頃までには人類はアメリカに到達する。そして南北アメリカで尖頭器(せんとうき)が特徴的な石器文化が営まれる。これはクローヴィス文化と呼ばれ、尖頭器も出土している。
アメリカ先住民のホピ族は精霊崇拝を行う先住民。
ホピ族の石板の2匹の蛇は、土地の境界線である2本の河のコロラド川とリオ・グランデ川を象徴している。このグランドキャニオン周辺にはホピ族以外にも先住民がいる。
ホピ族の先祖は死ぬとグランドキャニオンに帰り、またそこに行くと、彼らの創造主と話ができると語り継がれている。
ブラックフット族とグレイシャー国立公園
北アメリカのモンタナ州のブラックフット族にとって、チーフマウンテンは原初の創造主である老人(オールドマン)が、その力を大精霊に見せつけるために造った山。各地の創成神話との類似から、原初の創造主とは無を表す。
カユース族とフッド山
アメリカのオレゴン州のカユース族の伝説では、休火山フッド山が原初の火の場所。ブラックフット族は精霊と交信したいとき、この山を訪れる。
ズニ族
北アメリカのズニ族のあいだでは、世界の創造者で維持者であるアウォナウィロナは彼=彼女である、という神話が伝わっている。
イロコイ族とナイアガラの滝
アメリカ先住民イロコイ族にとってナイアガラの滝は、悪に対する善の勝利の象徴。邪悪な水蛇がセネカ村に疫病をもたらし続けていた時、雷神が水蛇を退治するために造ったもの。雷神の稲妻による攻撃によって倒された巨大な水蛇の体は、ナイアガラ川の岩床(がんしょう)の中に閉じ込められた。川の水は絶えずその上に降り注ぎ続けている。ここでは蛇、雷神、稲妻というシンボルが伝承に見られる。
ハイダ・クワイの島々
カナダの西部沿岸の大小約150の島々からなるハイダ・グワイ(クイーン・シャルロット諸島)には、ハイダ族が住む。
伝説では、ワタリガラスが原初の海から飛び立つとき、そのしぶきでこれらの島々を出現させた。ここでも「原初の海」という各地の創成神話との類似が見られる。多くの場合、そこから神が現れ天地を作るが、ハイダ族ではワタリガラスが島々を作ったとされている。
トーテムポール
ネイティブ・アメリカンのトーテムポールも樹木信仰で、共通のシンボルが見られる。これは北アメリカ大陸の太平洋に面した先住民の多くが、家の中、家の前、墓地などに立ててきた柱状の木の彫刻。トーテムポールには、子供を前に抱える大人が彫刻されていることがある。
トーテムポールの子供を前に抱える彫刻は、紀元前1万年頃のトルコのギョベクリ・テペから出土している石像にも見られる。石像には各地の女神像に共通している胸を触るポーズが見られる。
トーテムポール上の鳥はサンダーバードと呼ばれる。サンダーは雷、バードは鳥で、姿は大きな鷲(わし)。雷の精霊で自由自在に雷を落とすことができ、獲物も雷で仕留める。鷲、鳥、雷も共通シンボルだった。
アメリカとカナダにまたがる先住民族オジブワ族のショルダーバックにも、刺繍されたサンダーバードが見られる。
鷲のデザインは、トルコのギョベクリ・テペの石柱、イランのジーロフト文化の石のハンドバック、古代エジプトの装飾品など、各国でシンボルとして見られる。
ネイティブ・アメリカンとタバコ
北アメリカのユタ州にある氷河期の狩猟キャンプから、紀元前1万年頃の鳥の骨とタバコの種が見つかっている。
紀元前1000年頃、アメリカのアラバマ州北部のネイティブ・アメリカンが、パイプでタバコを吸っていた証拠も出てきている。パイプの中にはニコチンが検出された。
このパイプは聖なるパイプと呼ばれ、アメリカではカルメットと呼ばれる。ネイティブ・アメリカンはパイプで煙草を吹かすことで「大いなる神秘」と会話する。彼らは大自然の全ては「大いなる神秘(宇宙の真理)」のもとにあると考えている。大いなる神秘とはグレート・スピリットのことで無を表すという結論だった。つまりタバコ、パイプは元来、無へ捧げる儀式用の道具ということ。
ネイティブ・アメリカンはY染色体ハプログループQが大半を占めている。Qはイラン付近で紀元前2万年頃発生したとされている。
1492年にインドを目指して出航したコロンブスがアメリカ大陸に上陸し、その先住民族をインディアンと名付ける。その頃からヨーロッパ人がアメリカ大陸にやってきてネイティブ・アメリカンのパイプを知り、世界各地に広めた。それがやがて大量生産の波に乗り、紙巻きタバコとなる。日本への最初のタバコの種子の伝来は1601年で、長崎県に来航したフランシスコ会員による。つまりパイプに類似した日本の煙管(きせる)も、始まりは無への儀式用道具ということ。
各国の1800年代のパイプと後の紙巻きたばこ。
先住民とタバコ
紀元前65000年頃にアフリカで誕生したムブティ族には、大洪水を生き残った男女が人類の始祖となる物語が見られた。そのムブティ族はコンゴの熱帯雨林に住み、タバコを吸う文化も持つ。
またパプアニューギニアで焼畑を行うクカクカ族も、タバコを吸う文化も持っている。
南米アマゾンのヤノマミ族
南米の原住民もY染色体ハプログループQが多い。
密林で1万年以上、独自の文化・風習を守り続けているヤノマミ族は、南米アマゾンのブラジルとベネズエラの国境付近に約2万8000人住み、南アメリカに残った文化変容の度合いが少ない大きな先住民集団。
ヤノマミ族の女子は平均14歳で妊娠・出産する。出産は森の中で行われ、へその緒がついた状態(=精霊)のまま返すか、人間の子供として育てるかの選択を迫られる。精霊のまま返すときは、へその緒がついた状態でバナナの葉にくるみ、白アリのアリ塚に放り込む。その後、白アリが食べつくすのを見計らい、そのアリ塚を焼いて精霊になったことを神に報告する。ヤノマミの間ではこれを「子供を精霊にする」と表現する。また、寿命や病気などで民族が亡くなった場合も精霊に戻すため、同じことが行われる。
このアリ塚と精霊に戻す儀式は、西アフリカのマリ共和国のドゴン族の創世神話にも見られる。
「創造神アンマが最初に創りだした両性具有の人間から、男女各四人からなる八人が生まれ、それが八十人に増えた。この時期の人間には死の概念がなく、老いた最初の人間は大地の子宮であるアリ塚に戻されて、ノンモの力によって精霊となって天に昇った。」
このドゴン族の天地創造神話も、他地域のものと共通点が見られた。西アフリカと南米では大陸が異なるが共通点が見られる。
ヤノマミ族にも神という概念があり、宗教はシャーマニズム。神に祈り、天界に帰す儀式などアイヌ民族のカムイノミやイオマンテと共通する。イオマンテとはアイヌの儀礼のひとつで、ヒグマなどの動物を殺してその魂であるカムイを神々の世界に送り帰す祭りのこと。つまりヤノマミ族の神も無である。
またヤノマミ族の女性の夫選びの儀式では、女性同士がレスリングを行う。対決前に両手を地面につけてから始めるが、相撲の立会いに似ている。
このヤノマミ族の主な食物は、動物の肉、魚、昆虫、キャッサバなどで、料理用バナナやキャッサバなどの焼畑農耕もおこなっている。
南米アマゾンのカラパロ族
カラパロ族は総人口550人ほどで、アマゾン川支流のシング川流域に住む先住民。キャッサバ、トウモロコシを栽培する焼畑農耕民。1家屋に25~30人ほどで生活する。彼らはレスリングを祭りで行う。これも両者が手をついてから試合開始で相撲と似ている。
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