秦河勝

秦河勝(はたのかわかつ)は聖徳太子の側近として働いたとされる人物。秦河勝が赤子時代に壺の中に入れられ、川に流されて誰かに拾われる話は、他国の神話でも見られる。たとえばモーゼ、ゼウス、ローマのロームルスは無のシンボルという結論だったが、これらも川に流される話に登場し、話が類似している。
秦河勝(前賢故実)

・日本神話の秦河勝
欽明(きんめい)天皇の時代、奈良県の大和川(やまとがわ)の上流部の泊瀬川(はせがわ)が洪水になった。そのとき川上から一つの壷が流れ下ってきたのを、三輪神社の鳥居のあたりで拾う者があった。壷の中には玉のように美しい幼児がいた。これは天から降ってきた人だということでさっそく内裏にこのことを報告しておいたところ、その夜の天皇の夢に、「私は秦の始皇帝の再誕である」というお告げがあった。そこでその幼児を内裏に迎え、殿上人として育てることにした。成長するにつれて大変な才能を発揮するようになったために、十五歳になったとき「秦」姓を与えてこれを「ハダ」と読ませ、秦河勝と呼んで重用することになった。

・旧約聖書の出エジプト記のモーセ
エジプトの王はヘブライ人の産婆に、ヘブライ人の男の子は生まれたらすぐに殺し、女の子だけを生かしておくようにと告げた。そんな中、ヘブライ人の若い男女が結婚した。二人ともレビ族の出身で、やがて二人の間に男の子が生まれた。その子は出生後、三ヶ月の間隠して育てられたが、やがて隠し切れなくなり、パピルスのかごに乗せてナイル川に流された。たまたま水浴びしていた王女が彼を拾い、探してきたヘブライ人の女性に養育を任せた。やがてその子は大きくなり、養子として正式に王女の屋敷へ引き取られた。水の中から引き出した子だったため、王女はその子をモーセ(ヘブライ語で「引き上げる」)と名づけた。

・アッカド神話のサルゴン
サルゴンを生んだ母親は、秘密裏にサルゴンを籠(かご)もしくは灯心草(とうしんそう)の船に入れて川に流した。運良く灌漑(かんがい)者アッキに拾われ、庭師として育てられる。やがてイシュタルに愛され、覇道(はどう)を歩み、ディルムンを征服した。

・ローマ神話のロームルス(王政ローマ建国の初代王)
神殿に軟禁されたシルウィアと軍神マールスに、双子の子供ロームルスとレムスが生まれる。しかし叔父(おじ)アムーリウスは、王位を継ぎうる双子の子を殺すように兵士に命じる。だが兵士は幼い双子を哀れんで、彼らを籠に入れて密かに川へと流す。ティベリス川の精霊ティベリーヌスは川を流れる双子を救い上げ、川の畔(ほとり)に住む雌狼(めすおおかみ)に預ける。やがて羊飼いファウストゥルスが双子を見つけると、妻アッカ・ラーレンティアと相談して引き取ることにした。彼の妻であるアッカ・ラーレンティアの正体は女神ケレースだった。

・インド神話のマハーバーラター第1巻
ある時、クンティーはドゥルヴァーサス仙を満足させたので、聖仙は彼女に神々を呼び出す呪文を教えた。彼女は好奇心から太陽神を呼び出した。太陽神は彼女に息子を授けたが、彼女は人々の目を恐れ、生まれた子を川に投じた。その子は御者(ぎょしゃ)に拾われて育てられた。それが勇士カルナである。

・ギリシャ神話のペルセウス
ゼウスが黄金の雨に身を変えて忍び込み、ダナエーはペルセウスを産んだ。これを知った夫でアルゴス王のアクリシオスは、娘とその子を手にかけることができず、二人を箱に閉じこめて川に流した。ダナエー親子はセリーポス島に流れ着き、漁師ディクテュスによって救出された。

・ギリシア神話のアドニス(これは川に流された話ではないが類似した話)
神々は、ミュラーをミルラ(没薬)の木に変えた。やがて、その木に猪(いのしし)がぶつかり、木は裂け、その中からアドニスが生まれた。そのアドニスにアプロディーテーが恋をした。やがてアプロディーテーは赤ん坊のアドニスを箱の中に入れると、冥府の女王のペルセポネーの所に預けた。こうしてアドニスはしばらくペルセポネーが養育することになった。

・ギリシア神話のオイディプス(これも川に流された話ではないが類似した話)
テーバイ王ライオスは神託(しんたく)によって、今度新たに生まれた息子が成長すれば、自分の王位と生命に危険があると言われた。そのためライオスは牧者に頼んで殺させようとした。しかし牧者は赤ん坊を殺すのがかわいそうになり、子供の足をくくって、樹木にぶら下げたまま捨てた。その赤ん坊をある百姓が見つけ、自分の主人夫婦の所に連れて行き、そこでオイディプスと名づけ養うこととなった。


このように秦河勝も無を表した人物。秦河勝は猿楽(さるがく)の始祖とされる。猿楽が発展したものが明治以降は、能楽(のうがく)や狂言(きょうげん)となる。



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